感想

松岡圭祐『千里眼 ミドリの猿 完全版』角川文庫

さぁて、ここまで遡って参りましたよっと。(※20090425記) 作者も裏表紙の解説も全面改稿によってほぼ新作に生まれ変わったと語る、この作品。 しかも、この次の巻からは改稿前とは全然違う話になるらしいです。 鬼か。 それはクラッシックシリーズを名乗る…

東野圭吾『容疑者Xの献身』文集文庫

東野圭吾は本当に上手いな。 本当にすごい。感心する。 『予知夢』の感想は書かないけど、『予知夢』は科学的トリックに力を入れるがために論理トリックが弱い。だから、科学的トリックを解けるかどうかという所で作者と読者の勝敗が決まってしまう。エンタ…

12月・1月・2月の読書記録/読書感想

なんつーか、また長いこと記録をつけるのをサボってしまった。 めんどくさいんだよなぁ。 やっぱり、買った時にすぐ書かないとだめだね。 てわけで、3か月分。 ■購入 ▼12月 12/4 綱本将也作、ツジトモ画『GIANT KILLING(1)~(4)』モーニングKC 皆川亮二…

映画『チームバチスタの栄光』/映画感想

地上波アナログテレビで観たんだけど、微妙じゃね? まず語り手の田口を女性に変更。 それから、狂言回し兼探偵役の白鳥に原作のインテリデブのイメージとはかなり変えて阿部寛を起用。 まあ、なんつーか、もっとこういう変更が活きるような撮り方がもっとあ…

ミチオ・カク著、斉藤隆央訳『パラレルワールド』NHK出版/読書感想

ようやく2007年06月10日に買ったこの本を読み終わりました。 最前線に立つ物理学者が丁寧に現代物理学の経過と現況、そしてその関心の向かう先を描き出しています。 たとえに映画やドラマの話を持ち出したりしていてわかりやすいですし、また、ワームホール…

夏目漱石『こころ』/読書感想

非常に面白かった。 高校時代に教科書で部分的に「K」が死ぬくだりを読んだ限りではこんなに面白そうな感じじゃなかったけどなぁ。 まあ、当時の僕は若かったので「偉そぶってても融通が利かないばっかりに苦しんで、それで結局裏切られて失恋して自殺とか…

支倉凍砂『狼と香辛料Ⅹ』電撃文庫/読書感想

海を渡ったのが良かったのか、凄く新鮮味があって面白かった。 物足りなく感じている部分があるとすればそれはエーブみたいな危険人物の存在が無くて、ちょっと和やかなせい。でも、ま、たまにはロレンスにもこういうゆったりまったりごほうびがあってもいい…

夏目漱石『吾輩は猫である』/読書感想

面白かった。 実業家をこきおろしたり、文明批判をしたりしつつ、そういう自分たち文化人自身も猫の視点で滑稽に描いている。 それにしても、最終第十一回はすごい怪気炎があがっていて面白かった。 結婚しなくなるという話や、自ら死を選ぶ権利の可能性につ…

クルーグマン著、山形浩生訳『クルーグマン教授の経済学入門』/読書感想

休学手続きに大学に行く時についでに返却したいと思ったから今日読みきった。 著者のポール・クルーグマンは去年ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞をもらった人ね。 アシモフの「ファウンデーション・シリーズ」の社会心理学者ハリ・セルダンに憧れて一…

綿矢りさ『蹴りたい背中』河出文庫/読書感想

『インストール』を読んだのがもう半年前かぁ……。 という個人的な感慨はさておいて、読んでみました。 えー……こちらが前作『インストール』の感想なのですが…… 僕はこの「リアル感」をどう評価したらいいのかわかんないんですよね。 こういう、煮え切らない…

横山秀夫『動機』文集文庫/読書感想

氏にとっては『陰の季節』に続く二作目の短編集ということになる。 既に更に後年の作品を読んでいるので出来において「これは!」という驚きはないけれども、氏の「組織の脇役を主役として描く」という作風はしっかり表れている。 警察だけでなく、警察回り…

四季とフランシーヌの違いについて/読書感想

瀬名秀明『デカルトの密室』(新潮文庫)に登場するフランシーヌ・オハラと、 森博嗣「S&Mシリーズ」、「Vシリーズ」、そして「四季シリーズ」に登場する真賀田四季、 この二人を似ていると思う読者は多いだろうと思う。 まあ、僕が完璧に理解しているは…

よしもとばなな『イルカ』文集文庫/読書感想

主人公は30を少し過ぎた女性作家。 大きく売れているわけではなく、しかし、生活が苦しいわけではない。 母は10代で亡くし、父は妹と暮らしている。 付き合っている人はいるが結婚願望は無く、別に独りでさびしいと思うこともない。 そんな女性が、珍しくイ…

アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』ハヤカワSF/読書感想

面白かった! ある日突然空に現れたそれは、宇宙開発を競い合う東西両国の科学者の努力を水泡に帰した。 その巨大宇宙船から指示を出すオーバーロード<上帝>とは一体どんな生物なのか? そしてその目的は? と、こういう作品です。 なんつーか、もはやこう…

瀬名秀明『デカルトの密室』新潮文庫/読書感想

すっげぇ面白かった! 半分くらいしか分かっていないと思うけど、その半分しか分からないというのが面白い! ジャンルはSFでしょう。「密室」という表題に騙されたミステリファンにはごめんなさいと謝るしかない。謝るしかないけど、ミステリファンの結構…

三崎亜記『となり町戦争』集英社文庫/読書感想

となり町との戦争は主人公にとって突然に始まり、そして緩慢に終結を迎える。 主人公は本当にこれで戦争によって失うことを知ったろうか? 文庫化に際して加えられた別章の方が、本編よりも短くてもずっとしっかりとこの作品のテーマを伝えている。 ひとつは…

夏目漱石『明暗』新潮文庫/読書感想

実に2週間分くらいの通勤時間が費やされました。 漱石最後の未完の大作。 解説にもありましたけれど、ドストエフスキヰの影響を感じずにはいられないですね。 僕は、『こころ』と『三四郎』でさっぱり感情移入できずに挫折した思い出があるのですが、これが…

舞城王太郎『阿修羅ガール』新潮社/読書感想

出だしはすごく良いんだけど……。 うーん……。 これは確かに読者を選ぶ。っていうか、読者が読むか読まないか選べ。 俺にはよくわからん。 2003年の作品ということで、まあ、凶悪事件が増えてきた後の少年少女の姿を描いている。 あと、ネットの存在が大きな背…

漠然と、漫画/漫画の話

最近の漫画の話をしようか。 まずは『バクマン』に触れざるを得まい。 この作品は明らかに「ジャンプ漫画」そのものをテーマにしている。 ジャンプ特有のアンケートシステムや若手作家の抱え込みの話が取り上げられており、漫画を好んで読んでいるものが噂で…

野上弥生子『海神丸』岩波文庫/読書感想

1時間かからずに読了。 大正期に大時化に遭って漂流し、飢えて同僚を食おうと殺そうとする……というお話。 著者がたまたま目にした関係者のメモを見てフィクションとして書き起こしたほぼ実話。 著者は実際に食人が行われたかを知らずに書いており、実際のと…

金谷治 訳注『論語』岩波文庫/読書感想

読み終わりました。 「儒教的○○」って言われてもよくわからないので、『論語』から入ってみた。 時代は周の支配力が弱まっている春秋時代。孔子は魯の国で大臣を務めていたが、代替わりによって遠ざけられたっぽいことが伺える。ここで政変に応じようとした…

10月・11月の読書記録/読書感想

10月末にサボった10月分とまとめて読書記録を作成します。 ■10月購入 10/12 倉野憲司 校注『古事記』岩波文庫 村上春樹『海辺のカフカ』新潮文庫 田中康夫『なんとなくクリスタル』新潮文庫 10/20 塩野七生『ローマ人の物語―終わりの始まり―』(29~31)新潮…

P・R・ハーツ 著 山内春光 訳『世界の宗教シリーズ―神道』青土社/読書感想

アメリカ人の著者による日本の神道に関する解説書。 欧米人向けに英文で書かれたものを翻訳しているのだが、非常によくまとまっていてわかりやすい。 日本独特の仏教との密接な関係にも触れられており、また、近代の新興宗教の派生についても触れている。 日…

漆原友紀『蟲師』(10・完結)アフタヌーンKC/読書感想

西洋文明が緩やかに入り込みつつある架空の時代を舞台に、 人や獣と自然の理を繋ぐ中間の存在である「蟲」とのかかわりあいを描いた作品。 この10巻で幕を降ろすこととなりました。 久しぶりの、人には見えない道理を心霊鬼神に託す類の良い作品で、 どこか…

角田光代『空中庭園』文集文庫/読書感想

『対岸の彼女』で直木賞を受賞した氏の、その前の作品。 婦人公論文芸書を受賞している……いろんな賞があるんだな……。 現代の家族劇を書くとすると、郊外というのは絶対に無視できない。 そこには都市から溢れた矛盾がありのままに転がっているからだ。 田舎…

上橋菜穂子『精霊の木』偕成社/読書感想

まさかのSF作品。 ファンタジーで有名になった作者の大学院生時代の作品は、研究分野を勉強する過程で感じた憤りをこれでもかと詰め込んだSFだったのです! 面白かった。 非常に興味深い。 情報がてんこ盛りで詰め込みすぎのきらいはある。 小中学生では…

ディック『マイノリティ・リポート』ハヤカワSF文庫/読書感想

フィリップ・K・ディックの作品集です。 短編の作品集というのは、冗談にしてもストーリーテラーを目指すものにとって読むのに恐ろしいものだ。 「自分が温めているアイディアを先に書かれているかもしれない」 おお、恐ろしい。 ……とか考えると本なんてと…

服部英雄『地名の歴史学』角川叢書/読書感想

九大の先生の書ですね。 うーん…この先生は教養課程の『歴史と認識』の講義を担当しておられるそうですが……僕が受講したそれの内容は「東アジア史」のみだったので違う先生だったのだと思う。(←名前覚えてない。追記:調べた。俺のクラスは宮本氏だったのだ…

市川 宏、杉本 達夫 訳『史記(1)』徳間文庫/読書感想

全8巻の第1巻……しか弟は持っていないらしい。ぬう……。 伝説時代から夏王朝、殷王朝、周王朝、春秋五覇の時代までの白文、書き下し、翻訳で読む司馬遷の史記です。 翻訳がかなりぶっちゃけているので素人にも割と読みやすいと思います。 てか、ぶっちゃけすぎ…

塩野七生『ローマ人の物語~迷走する帝国』(32~34)新潮文庫/読書感想

塩野ローマ史の終盤もかなり佳境に入ってまいりました。 属州民がローマ市民になったり、 元老院と最前線の人材交流が激減したり、 キリスト教が台頭してきたりしています。 北方蛮族の騎兵による電撃的略奪行為に対抗してローマ軍も騎兵を主力に据えるよう…