さよなら記憶喪失先生/夢日記

■071009.tue-1

悪の組織の大総統を見えない刃が切り裂く。

致命的なダメージを受けた大総統は、一歩、二歩と後じさりし、苦悶の表情を浮かべた瞬間に大爆発を起こした。

我々は、勝ったのだ。

「やった!やったぞ!」

…という超能力戦隊の特撮を見ているおっさんがいる。

「おい、おっさん。俺は客だ。接客をしろ」俺はそう要求した。

「答えはノーです。最終回の視聴を邪魔するなんて、なんと無粋な輩か」店長はそう答えた。

「うっせーよ。それDVDだろ。いつでも見れるだろ。とにかくとっとと俺にこのゲームを売れ」俺はそう言った。

□ □ □ 

何なんだ?

■2

ばっちゃが新興宗教にハマって勧誘に来た。

□ □ □ 

出たなニセモノ。

■3

(前回までのあらすじ:ある朝青年が目を覚ますと、彼は記憶喪失になっていました。そして、隣にいた女性は彼を恋人と呼んでつきまとい、そんな彼らを物置やマンホールから飛び出て登場するカエル頭に学ラン姿の男が邪魔しようとする。自分の記憶を取り戻す為、彼は街をさまよう…)

「お願いです。助けに来てください」

街で出くわした女性がいきなり私に助けを求めてきた。

「はあ。それは結構ですが、しかし私が役に立つかどうかは甚だ怪しいものがありますが…」

「大丈夫です。さっ、こちらへ」

その女性は僕の手を取って細い路地へと入っていく。記憶を失って以来状況に流されがちな私は、ろくに抵抗することも無く彼女に誘われるままに路地を通り抜けた。僕について生徒たちも路地を通ってくる。

路地を抜けるとそこは大雨だった。

「向こうの通りは晴れてたのに…!?」

驚き、天を見上げていると、繋がれていた手がほどけるのを感じた。それで視線を戻すと私をここへ連れてきた女性は忽然と姿を消してしまっていた。

「これは一体…」

私はしばし呆然と雨中に立ち尽くしていた。それは生徒たちも同様だった。

「ちょっとあんたたち!早く避難しなさい!」

私たちに声を掛ける者がいる。私たちはいっせいにそちらを見た。どこかで見た顔だった。

「あれ…あなたは…」

私は振り返り、生徒の中から順子を探し出した。やはり、似ている。当人も同感らしく、口をぽかんと開けている。

「あら、あなた私によく似てるわね……ってそんな世間話をしている場合ではないわ!じきに洪水になるわよ!ほら、こっち!」

その順子似の少女は、我々に大振りに手を振って避難経路を示した。

私たちは彼女に従って雨に煙る街を走り出した。

走りながら街並みが昭和レトロな趣であることに気付き、「もしかしたらここは過去。そしてあの少女は順子さんの母親の過去の姿なのかもしれませんね…」そんなことを空想した。

避難する途中、防火水槽に二人の人間が浮いているのを発見した。

私は思わず立ち止まったが、順子の母親と思しき少女は非情にも「だめよ!もう死んでしまっているわ!今は自分の命が大事でしょ!」と私を引き止めた。しかし、私には見過ごすことはできなかったのだ。

私は防火水槽に飛び込み、二つの遺体を一つずつ水から引き上げて、水槽の隣の少し高くなっている場所に横たえた。ここに横たえたところで、本格的に水位が上がれば彼らは水にさらわれてしまうかもしれない。そんなことを考えると自分の成したことと失った体力とに不釣合いを感じそうになったが、必死にその感情を押しとどめて私は再び立ち上がった。

避難場所は一軒の民家だった。

立派ということは無い。ただ、二階があるだけ。

中に入ると、屋内は薄暗かった。停電しているのだろう、と思った。

「ここのおばさんはね、息子さんがいなくなってしまったの」

ここまで案内した少女が言った。

「息子さんはね。機械工作が趣味で、部屋で結構高い電圧の機器を取り扱っていたんだって。そして…」

少女はそこで言葉を切った。私はその様子に思わず自分の境遇を思い出し、

「まさか…それが、私!?」

そう、叫んでいた。

しかし、傍らの女性がそれを否定する。

「やですねぇ、そんなわけないじゃないですか。ここは過去なんですよ。時代が違います」(CV.野中藍

それにしても場の空気にそぐわない明るい声である。それまでの緊迫した雰囲気が消滅してしまった。

「あのですね。それは解っていますが、強力な電圧によって時空が歪んだ可能性もあるじゃないですか。フィラデルフィア・エクスペリメントとか。そしてそのショックで私は記憶を…」(CV.神谷浩史

「やだなぁ、そんなSFみたいなことが私たちの周りで起こるはずが無いじゃないですか」

「そうですか?」

「そうですよ」

「それはともかくとして、どうして今日は風浦可符香の声なんですか?」

「あれ?キャラにあってませんか?」

「いやキャラの問題ではないでしょう。何故に今日に限って…って、私も絶望先生の声になっているではないですかー!?」

「駄目ですか?」

「駄目も何も、違和感があります。他の声になりませんか?どうもこのサスペンスな空気に今のあなたの声は不釣合いなのです」

「そうですか…では、これではどうです?じーーーーー」(CV.真田アサミ

「今度は常月さんですか…いや、確かにストーカーという意味でキャラは合っているんですが、怖いのでやめてください」

「めんどくさいひと」(CV.矢島晶子

「今日は本当に自由ですね…」

「じゃあ、あなたはどんな声がお望みですか?」(CV.野中藍

「そうですね…じゃあ、音無芽留で」

「セリフが無いじゃないですか」(CV.???)

「黙っていてくださいということです…って、あ」

「あ」(CV.???)

「今…普通に喋りましたよね」

「普通ってゆーなー」(CV.新谷良子

「可愛く言ってごまかした…」

唖然とする一同。というか、案内してくれた少女を置いてけぼり。

「こほん。とにかく、ここは家主たるそのおばさんとやらにお話を伺う必要が…はっ」

その瞬間、私の目を捉えたのは少年の写真だった。私とは、似ても似つかない。

「…どうやら、私ではないようですね…」

私は奥の部屋の障子を開いた。丸まった背中があった。

私は背中越しに声を掛ける。

「おかあさん…あなたがそんなふうにいつまで悲しんでも彼が帰って来るわけではありません。今でなくてもいい、いつかは立ち直って下さい…それは、死んでしまった彼の望むところでもあると思いますよ…」

「……」

返事はない。そんなに簡単に整理できる問題ではないのだ。私は再び障子を閉じた。

「また、空振りでしたね♪」女性が愛らしく言う。

「…私が記憶喪失なのがそんなに楽しいのですか…?」私は落胆しながら彼女に訊ねる。

「楽しいというか…一緒にいられるから」女性はにこやかに答えた。

私は、毒気を抜かれて返答に詰まった。

「認めない…!」

出し抜けに喉の奥から搾り出したような声がどこからか放たれた。一同は声の主を探して部屋を見回す。すると、押入れの上の段、あの狭いところからカエル頭が顔を出していた。

「認めんぞー!!」

カエル頭はそこから飛び出してきて私に襲い掛かった。こいつ、頭だけがカエルかと思ってたら指もちゃんとカエルで三本だ。人間らしいところは頭身と学ランくらいしかないぞ。

「誰かと思ったらおまえかー!いったい何の恨みがあって私を襲うんですかー!?」

「彼女は渡さんぞー!」

私につかみかかるカエルの頭を押し返す。ぬめって気持ち悪い。

「ひぃぃ!コスプレかと思ってたのにまさか本物!?気持ち悪っ」

「カエルでもいいじゃないか~俺にも夢くらい見させてくれ~(泣」

「うわぁああ!…って、夢……ゆ…め…?」

そのとき、私の中で何かが重なった。

「そうか!これは夢か!そして、私は僕か!」

そう、この瞬間、夢を見ている僕とこの記憶を失い「私」を自称していた彼とが重なったのである!

そして俺の周囲は光に包まれて消え去った。

あまりのまぶしさに目を細めると、光は弱まっていった。

そして、完全に発光が収まったのを感じて目を開けると、さっきまで傍らにいた女性と差し向かいにテーブルについている。窓の外は夜、無数の光点が彩る夜景が美しい。

「結局、あなたは誰だったんです?」僕は訊ねる。

「さあ、分からない」彼女は答える。さっきまでの小柄ながらエネルギーに溢れた印象とは異なる落ち着いた雰囲気。

「本当はね、あなたが記憶喪失に気がついたとき、私も自分の記憶喪失に気付いていたの」

彼女がうつむきかげんにそうつぶやいた。

「だったら何故そう言ってくれなかったのですか?」

僕は背筋を伸ばしてはっきりとそう言った。

「一目惚れだったの。彼女と偽って、ずっと一緒にいたいと思った」

彼女が顔を上げた。瞳に夜景が映りこんでいる。

「そう…ですか…」

僕が少しうつむいた隙に、彼女がワインを僕のグラスに注ぐ。

レモン色のスパークリングワイン。

「でも、それもおしまいね」

彼女は笑って見せた。

「…かも、しれません」

僕は彼女からボトルを受け取り、彼女のグラスに注ぐ。

「それじゃ…」

二人はグラスを掲げた。

グラスの向こうの彼女と、グラスを通して見える彼女と、どちらに視線を向けたらよいか迷った。

「さよなら」

「乾杯」

グラスがぶつかる硬質な音が響き、僕は闇を通り抜けて夢から覚めた。

□ □ □ 

この夢を見てちょっと気分が高揚した僕は、先に起きていた弟に

「ここんとこ夢に出てきていたカエル男とストーカー女に付きまとわれていた記憶喪失の男の話がようやく最終回を迎えたよ」

とのたまった。

「……」

「何かコメントは無いか、弟よ?」

「コメントはと言われても…困る」

「うむ…俺も言ってから自分で次になんて言ったら良いか分からなかった」

人ってこうやって狂って行くのかもしれないと思った休み明けの朝でした…OTL