滅亡/夢日記
■061216.sat-1■
時間は残されていなかった。
巨大な津波が街を襲うだろう。
逃げなければ。
しかし、どこに?
やり場の無い怒りをぶつけるかのごとく普段は静かな研究所内に怒号が飛び交う。
観測した事実に間違いがなければ10分後に世界を数十メートルの津波が襲う。
原因は彗星の衝突。
何もできない。
この観測所は少し標高が高いところにある。
ふもとの家族を助けに行こうとする職員がいる。
それを押し留めようとする同僚。
行かせてやれば良い。どうせここも完全に安全とは言い切れないのだ。
そして案の定、大音響の後に視界が暗転して、世界が終わった。
目を開いた。
研究所のデスクに座っている。
夢だったのだろうか?(夢だった)
違う。
同じ光景をもう一度見るのだ。
そして、始まった。
衝突と悲鳴と絶望感と怒号。
僕は高い所の他に地下に逃げるよう伝えねばと思った。
さっきの夢では失念していた可能性。
地上に居続けるよりは余程可能性は高い。
誰かに伝えなくては、ファックスで。(何でファックス?)
誰に伝えようか?名刺入れを探す。(名刺入れですか!?)
なるべく遠いところが良い。
しかし、どこもファックスが使えない。
車で外に出る。ファックスが使えるところが無い。
そんなこんなしてる間に、暗転。
□ □ □
ここで電話を一切思いつかないのが電話嫌いの面目躍如ですね…。
今日はもいっちょ↓
■061216.sat-2■
屋敷というには及ばないおんぼろの平屋造りに本拠を構え、この地の豪族として名を馳せる何某…の一の家来が僕である。
今日も館を発して隣の縄張りへ侵入した。
馬を早駆けに駆けさせる。夜襲は静かに掛けるのが定法とは知っているが、しかし、館様が派手好みゆえに仕方ない。
それに、今宵は決着を心に決めている。逸る気持ちを抑えきれぬのは一族郎党同じであった。
戦はあっけなかった。
衝突し、蹂躙し、首級を挙げ、追い散らして、終わった。
その後の処理を終えたのが館を経って三日目の朝である。
ゆるゆると馬を歩ませて館へと戻ったのは霧雨降る夜であった。
館に着くと留守居を任せていた翁が軒下で震えている。
そして館の中では宴会が行われているらしく、暖かい光と穏やかな笑い声がこぼれてきている。
どうした?と当然の問いを掛けると、それが…と言い淀む。
変なヤツと気にせずに中に入ろうと板戸に手を掛けると、翁慌てて注進する。
「唐より来たる商人ですが兵を連れておりますゆえ危険で」
僕は振り返り館様を見た。館様は一言も発せず目を光らせた。
僕は板戸を開けた。
誰が入ってきたものかと振り返る無頼の徒の視線は無視する。そして頭領らしく奥の座に座る連中へと無造作に対面し、座の中心で立ち止まって呼ばわった。
「やあ、この屋敷は我が主のものぞ。汝らは何の故あってここを無頼に占拠するか。返答次第ではたたっ斬るぞ」
この呼び掛けに反応して一座の視線が正面の長髪の男へと注がれる。
長髪の男は手にしていた杯をくいっと乾して、目を開いて曰く。
「留守と見たから使わせてもらっただけのこと。しかし、占拠と申されるように今は我らが奪ってものにした…とも言える」
この言葉に仁王立ちから一転して腰間の一刀に手を添え、右足を一歩踏み込む。いつでも抜ける姿勢である。
「では…?」
短い言葉で戦意を問い直す。
長髪の男、一瞬の無言。
しかし、睨みあう二人の間に右から剃髪の男が割って入った。
「あいや待たれよ。我らは商人。商売でことを決する方が性に合っておる。ここは取引といかんか?」
躍り出た男が丸腰なのは一見して理解した。しかし、刀を抜く動きは止めずに一息に抜き放ち、剃髪の男のこめかみまで三寸のところで寸止めをした。溜めた呼吸が抜けぬよう下腹を圧しながら低い声を放つ。
「これは取引ではない。立ち退けという命令だ」
剃髪の男は目を逸らさぬまま眉を何とか吊り上げて滑稽な顔を作って見せ、大人しく座に戻った。
それを確認して抜き身のまま更に一歩を進む。
今度は左の男が立ち上がる。
「何か?」
言いながら右手の刀をするりと上げて喉元に突きつける。
「いや、先ほどの男が言うように我らは商人。争うつもりはもとよりありません。この館も仰せの通り立ち退きましょう。しかし…」
「しかし?」切っ先をわずかに揺らして威嚇する。
「今後はお取引いただければ、と存じます」
この言い様にいかに返答したものかと逡巡すると背後から声がかかった。
「良かろう。岡本、剣を引け」
館様である。
いつの間にか武装を解いて座の中央に立っている。
そして長髪の男へ歩み寄り、杯を手に取った。
「呑め!祝いの杯じゃ!」
そうして宴会は更に盛んににぎわった。
霧雨はまだ降り続いている。
縁側に出て軒端に飛びついた。全身を振って勢いをつけ、くるりと屋根の上へと上がる。
降りかかる霧雨が程よく冷たい。
天には朧に月が見えている。
□ □ □
戦国っぽい感じ。