天下布武/夢日記

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白装束の列がお白州の中を蛇のようにのたくる敷石の道を粛々と進んでいる。

俺と部下達はその中で、じっと昂ぶる心を抑え、息を殺していた。

脇に控える部下の一人が震える声で言う。

「今すぐ周りの誰彼構わず斬りかかりたい気分ですよ」

そう言って、フードの下からニヤリと笑って見せた。震えは武者震いなのは解っている。

「打ち合わせた通り実行は新年の祝い花火が上がった瞬間だ。それまでは動くな。それに…」

俺はそこで一瞬言葉を切って周囲を見回した。50m四方はあるであろうこのお白州の周囲の壁には1mおきに衛兵が槍を持って控えていた。

「ここで切りかかってもやつらの喉下には届き得ぬだろうさ。せいぜい、巡礼者を4、5人道連れにしたところで討ち死にだ。それよりも…」

俺の言葉のそこから先はその部下が引き継いだ。

「どれだけあの城門に近づけるか。どれだけの者が城門を巡礼者として越えられるか、ですね?」

「ああ、その通りだ」

俺は同意し、蛇行する列の先を見た。精鋭部隊の先頭がようやく城門の身体検査を受けようというところだった。

「まったく、豪気な作戦として戦史に名を残すでしょうよ」部下は言う。

「いや、そんなに大した策ではない。ただ、勇気が必要なだけさ。そしてそれが我々には十分にあった。ただそれだけだ」俺が答えると前後の幾人かに聞こえたのだろう、気迫が充実するのが感じられた。やれる。この者達なら。

精鋭の戦闘は通り抜けて中に入ったようだ。あと数人で俺達の番になる。

そして、まさに俺達が身体検査を受けようと言う時に、新年を祝う鐘とそれに呼応して打ち上げられた花火の大音響が鳴り響いた。

敵国の信者どもは花火を見上げ、歓声を上げている。俺達の身体検査をやろうとしていた衛兵も花火に気を取られていた。そしておそらく先ほどの広場の衛兵達も。その中で逆に冷徹さを心に据えたのは異教徒たる我々だけだった。そして、俺と脇の部下が預かりに応じるために腰帯から外していた剣をそのまま抜き放ち、目の前の衛兵の首筋を切り裂いて戦端を開いた。

俺と他3名が階段を駆け上がり、城門を落とされるのを阻止に行く。

その下では打ち合わせ通りに、列の後ろの連中から列の前の武器を回収されてしまった連中へと武器が投げ渡される。こうして始まった乱戦の只中にある我らを、彼方からの閧の声が鼓舞する。

そして、俺達がこの城門を確保した時、戦乱の終結は決したようなものであった。

それから幾月かが経ったある日、王は俺を呼び出した。

曰く、統一戦線の功臣が恩義に反して叛いたため、汝、討伐軍を率いてこれを討て、とのことだった。

俺はそんなことは初耳であった。王とその臣とに何かの対立があったことも、そもそもその臣が自領に戻ったことなども。俺はそれをそのまま正直に訴えた。すると、王は恐るべき返答を返してきた。

「今そうなるのではない。これからそうなるのだ」

俺は戦慄し、そして義憤に震えた。そしてそのまま諫言してしまった。

「まだ乱世が治まって日が経っておりません!そんな中このような内乱あっては民も将兵も心安まろうはずがありますまい!どうか、お考え直しを!」

俺はそう声を大に進言した。だが、忘れていたのだ。ここは宮中であり、王の手のひらの上であるということを。

王は遥か高みから言う。

「やれやれ、お主も理解できぬか。我が玉座を脅かすものは全てほろびるべきであると…もうよい。永遠に下がっておるがよかろう」

王はそっと右手を横に払った。俺は左右に殺気が走ったのを知った。そしてその瞬間には後方へと走り出していた。頭の中にはもはや、なんとかここを脱出し、この道を誤った君主に自ら代るしかないという決意しかなかった。

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硬派なの入りました~。