代数と実感/daily

数学では未知数を文字に置き換えて計算式の操作を行い、理解を易くする。

代数、である。

思考する時、未知の概念を便宜上何らかの言葉で代理させることがある。

代数と、同じ。

いや、全ての言葉は概念を代理している。だから、概念と言葉は同時であろう。

思考する時、脳裏に在るのは現物ではなく概念である。故に、思考は常に仮想である。

問題はこの点において現物がある仮想と現物がない仮想とは、本質的な違いを持たぬのに現実にはその差を途方もなく大きいものと感じてしまう。

何故か?それは言葉だけでなく、現物に伴う五感の情報をも思考の際に助けとしているからである。情報の少ない、現実感の無い概念に関わる思考は困難となる。

それは、現実と空想を弁別する上で必要なハードルではある。

しかし、高度に抽象化された現代ではこのハードルは絶対に乗り越えなくてはなるまい。

現物に触れる機会が少ない物が多すぎる。

堅く閉じられた機械の中身も、遠く少なくなった自然も。

そうして、想像することは難しくなってしまう。

五感を刺激する多くの多様な経験は、現実と空想を分け、思考を豊かにする。

…というようなことがこれから読むサピアの「言語」(岩波文庫)に書いてあればいいなぁ。