Girls' lookin' for .../夢日記

■061118.sat■

少女二人から自殺予告を受け取り、山道を二人で探し歩いている。

連れているのは少女の一人と関係浅からぬ医学部の学生である。平常ではさぞ涼やかであろうすっきりと整った顔立ちに深い苦悩の色を浮かべている。

山に深く入るほど、焦りも募る。秋の山の空気は冷たく湿り気を帯びており、肌から沁みるように体温を奪う。

谷線沿いに進路を採るのはやはり水の気配がどこか死を連想させるからだろう。しかし登山の進路としては賢明な選択ではない。足場はどんどん不確かになり、加えて霧まで立ち込めてきた。

悪化する条件に尾根線沿いへとルートを変えようかと思案し始めた時、眼前に谷を塞ぐ高い壁が霧の奥に現れた。一面苔に覆われたその堤体。高さは4、5メートル。天場の長さも高さと同程度。そしてその上に朧な人影―黒髪長く肩を過ぎ、濃紺のセーラー服にオフホワイトのセーターを着た―

二人は別々に両側の斜面を駆け上がる。低木の枝を掴み、濡れた草葉を掻き分ける。天場に足を掛けた時、物音に辺りを見回していた少女と目が合った。口は閉じられたまま、彼女の目が諦観を語り、僕の目が制止を叫ぶ。しかし、その悲しみに細められた双瞳は僕の視線を振り切るように閉じられた。少女はダム湖の方へと一歩踏み出す。そして二歩。僕は力なく歩む少女との距離を全脚力でもって詰める。一歩の間に1メートルを駆け、三歩目に足が宙を踏んだ瞬間、伸ばした右手が少女の右袖を掴んだ。勢いはそのままに仰向けに倒れこみながら右手を引いて少女を引き戻しつつ受け止める。

一瞬の衝撃と暗転。

目を開けると縁石も無い切立った堤体の際に僕は転がっていた。少女は一瞬呆けていたが、すぐに何事か呟きながら大声で泣き出した。青年がようやく駆け寄り、彼女をなだめようとする。僕は、体を起こしてあと数センチで落ちていたかもしれない湖を見た。

心を奪う風景がそこにあった。

左手奥の木々の隙間から夕日が差し込み、左手は温かな橙色に染まっている。対して右手奥は更に山深く霧深く、木々が鬱蒼と茂って冷たい青色が深みを持って広がっている。その狭間、静かな水面には木々の緑が映え、その上を霧が走り流れて夕日の橙が照らす場所が刻々と変わり続けている。

その幻想的な光景は、あまりにも“人”からかけ離れているがために人の侵入を拒絶し、遠ざける。そして、人はその遠さを感じるほどに惹きつけられる。

だからこの少女はここに今まで佇んでいたのだ。この景色は人を寄せ付けずに惹き付ける。見た者を矛盾する心理の隙間に閉じ込めてしまう。

彼女は「どうして?どうして?」そう言いながら泣いている。

しかし、彼女だけではなくもう一人、ここに来ているはずだ。

泣いている彼女にもう一人の少女、おそらくここで死のうと言い出した彼女はどこかと問い質す。

「……奥……もっと奥……」

それだけ聞いて振り返る。ダムの向こうに道はまだ続いている。

青年が走り出す。

僕は泣き続ける少女を半ば無理矢理立ち上がらせて連れて行く。少女は意外に素直に一緒に歩き出すが、心ここにあらずといった態でどうにも速度が出ない。

しかし、くねった道を少し進むとそこに何か建物があるのが見えてきた。正面へと回る時間を惜しんで茂みを突っ切って庭から入っていく。

そこに、青年ともう一人の少女がいた。

二人とも5歩の距離をあけてこちらに背を向けて立ちすくんでいる。そして、その木造の建物の中で行われている厳粛な、それでいて幸福に満ちた儀式を、二人して見つめている。

列席の正装した人々が扉から次々に庭に出てきた。そのいくらかは庭の端にいる僕らに気がついて奇異の目を向ける。しかし、僕らに誰何の声を掛ける間もなく、一度閉じた扉が再び開き、純白のドレスを着た花嫁が、グレイのスーツに身を包んだ花婿に抱えられて現れた。

歓声とライスシャワーが高らかに幸福の絶頂にある二人に投げかけられる。

僕はそれを見つめ続ける青年と少女の背中を見ていた。

まだ見習いの医者と治療中の患者とのこじれた関係を今更知った。

少女が振り返った。今僕の方にもたれている静かな雰囲気のこの少女とは全く正反対の、活発そうな、それでいて脆さを感じさせる少女。こちらの少女の髪は短く、また、色も染められている。しかし、その明るい色の髪が夕日に映えて美しかった。

少女は泣いている。そして青年に駆け寄る。

しっかりと受け止めた青年の背中を見て、しかし、本当に好きあっているのならば、間違った対応も何も無いのだろうと思い直し、誰に見せるでもなく僕は呆れたふりしてため息をついてみせた。

(ここで場面は飛躍する)

警察が到着し(山に入る前に連絡しておいたのだろう)、泣き疲れた三人はパトカーに乗せられて先に下山した。

僕は彼らよりは少し長く現場に残り経過を説明した。大げさに話すことも無い。ただ、事実の経過だけを。

刑事さんからは感謝の言葉を掛けられたが、彼らにとってはむしろこれからが大変であることを思うと、素直に喜べなかった。

□ □ □ 

長かった…

長かったな…

長かったけど、

今回、この夢日記を書きながら思ったのは、僕は物語を「作る」というよりも「見る」方が早いな、ということ。

見てから書けばいいのかな…?

しかしそれだと気分によって見えるものの違いに書けるものが左右される…

でも、それは現状と変わりないのか。気分が作品に合ってないと箸にも棒にもかからないという現状とは。(もう二週間くらい最優先作品と波長が合わないんだよね…←波長が論文に合っているため)