復讐者/夢日記

■060712/WED■

彼の父母は零落の後に絶望して自死し、僕らは家から追い払われた。

彼は復讐を誓い、街の暗い影の部分へと堕ちていった。

僕は彼に付いて行った。

彼は僕の主であり、僕は彼の友人であったつもりだ。

もう一人、彼には彼女が付いて来ていた。

彼女もまた、零落した両家の息女で、彼を大いに慕っていた。

彼はとても優れた頭脳を持っていた。

そして冷徹だった。

柔らかな金髪とシミ一つ無い美しく整った貌。

その天使のような微笑みを見れば、彼に敵意を向けることはおよそ不可能だと言える。

僕は、自分の姿を知らない。

警察官に目を付けられない程度には身嗜みを整えているが、それ以上は望むべくも無いだろう。

それから、背の高さは、彼と目線が同じである事からそれなりにある事が判る。

彼女は華やかな容姿ながら、その高慢な性格が少し気にかかる典型的なお嬢様気質。

動作は大抵オーバーで、特に恋する彼の前では良く動く。しかし、その動きや表情は何かしら優雅さを感じさせ、さながら舞台で踊る踊り子のようだった。彼女にしたら、観客は一人で十分なのだろうけれど。

緩やかにウェーブの掛かった金髪は地毛なのだろう、どんな生活でもそのきらびやかさは失われなかった。

表情が豊かで、彼にだけ微笑む時の双眸の美しさは、磨かれた銀の台座に嵌め込まれた碧玉のよう。

必死に彼にくっついて、忠実に言う事を聞く様は小型犬を思わせた。

そんな三人が街の闇に堕ち、復讐を志した。

彼はまず棲み処を探した。

街をさまよった。

探す中で警備員に見つかったりもした。

そして長い間使われていない家を見つけた。

住み込みの管理人の男がいるだけで、すっかりさびしい風情だった。

管理人は彼に持ち主の老夫婦についてよく喋った。

彼は管理人の愚図につけ込んで、その家に彼が住むことを納得させた。

僕らは棲み処を手に入れた。

彼はその一室で爆弾を作った。

小さくて軽い爆弾。

僕はターゲットの行動パターンを探る役。

僕は自分の役目の為に街を一日中さまよった。

彼と彼女はそれをターゲットに渡す役。

ターゲットはそういう場所に顔を出すことが多いし、そういう場所に忍び込むには僕よりも彼らのほうが適していた。

しかし、それ以上に彼らは自らの手で渡す事に意義を見出していたかもしれない。

決行の時、僕は周囲を見張り、成果を見届ける役だ。

一人目は歩きながら、二人目は車の中で、三人目は自宅で、それぞれ爆死した。

僕は三人の死を確認し、彼に報告した。

四人目は、雪の降る街角でクリスマスイブの特別なプレゼントを装って、彼女が手渡した。派手な赤で着飾った彼女が、どこにでもいるうかれた少女の呈で立ち去るのを確認し、僕はターゲットを尾行した。

幾らか歩いて、道の真ん中に火柱が立ったのを確認した。

人が多くて全体は見えなかった。

しかし、人ごみを利用して逃げない手は無かった。

僕は現場を立ち去った。

部屋に帰ると、大騒ぎになっていた。

事情は、部屋の様子を見ただけで解った。

彼女は先ほどの赤い服のまま部屋の隅で怯えている。

彼が一人の女性を押さえ込んでいる。

その女性は見覚えがあった。三番目のターゲットの娘。淑やかそうな印象だったが、今は狂ったように復讐を叫んでいる。

つまり、彼女がたまたま街を歩いていた三番目のターゲットの娘に見つかり、つけられた上に家への侵入まで許してしまったらしい。

それだけの事を理解する間に、彼の拳がその娘の顔を打った。

甲高い悲鳴と真っ赤な血。

僕はとっさに動き出し、彼の体を突き飛ばした。

彼は床に転がり、娘は驚きながらも体を起こして部屋から逃げ出した。

僕はその娘を追おうとしたが、後ろから拳が飛んできたのでそうは出来なかった。

いつも冷静で優雅な彼が怒り狂っていた。

「何をする!あいつには全て見られた!殺してしまわなければ!」

僕は反論した。

「標的はあとたった一人なんだ!関係無い人まで巻き込むのは駄目だ!」

間髪入れずに彼は怒号する。

「僕に逆らう気か!」

一瞬動きを止めた僕に彼の拳が飛ぶ。

僕は廊下にまで吹っ飛び、壁に頭を打ち付けた。

彼は僕を見下ろし、告げる。

「あの女を捜して来い。いいな」

そしてドアを閉じた。

僕は街の方に目を向け、再び家の方に眼を戻した。

すると、視界の端で震える影に気が付いた。

管理人の男だ。

近付いて声を掛けると、男はたどたどしい言葉で騒ぎに怯えている事を僕に告げた。

震えているのは着ているものが薄いせいもあるが、やはり血の気が引いてしまっているのだろう。

僕は自分のコートを男に渡した。それから、手袋も。

そして男に家の管理の老夫婦に使いに出て欲しいと告げた。

「へえ、それは今夜にでもですかい?」

「ああ、そうだ。急いで欲しい。ただし今夜は帰らなくていい。主の家でゆっくりしておいで」

男は少しの支度をし、僕は玄関まで男を見送った。

去り際に男が振り返った。

「旦那はどうなさるので?」

「さあ…。お前は元気でな」

「は…ええ…。」

そして男は静かになり始めた街へと歩いていった。

雪がちらちらと舞っている。

警察の手はあの娘の出現いかんに関わらず、もうすぐそこまで伸びていた。

日々、街を歩いていたからこそ解っていた。

だから、次の標的が最後となるのは間違いない。

□ □ □

殺人のお先棒担いでます。あはは…。

てかなげえ。

これでもかなり抑え目に書いたのに、なげえ。