Yahoo!文学賞レビュー2

■ミナミサエ『バイバイ、かまどうま』

僕は5作品の中では、4位としました。

しかし順位に相反してけっこう魅力的な物書きさんかなぁと思っています。

アイディア:★・・

物語展開力:★★・

文章スキル:★★・

作品の空気:★★★

詳しい評価は続きに↓↓↓

この作品の魅力はその軽快な文章です。

短い文とさばけた語り口でテンポ良く読ませてくれるし、会話文の関西弁がピシパシと利いていて楽しかった。

かと思えば文中の語句には結構難しいものも含まれていて(“饐えた”や“装う”、“太り肉”など)、かなり本を読んである方だろうとお見受けしました。

一つ一つの文のつくりも確乎りしているし、読み易かったです。

しかし、さくさくとした短い文の中に突然、長い主語を持った長い文が混じっていたのは考え物でした。

例えば2ページ目。

≪それにしても薄汚いオヤジと昔はそこそこの美貌を誇っていたけど、三十年以上女を売り物にし続けもう売るものなんか何一つ残っていないような、太り肉の中年女が絡み合っている姿を想像しただけで吐き気がした。≫

主語に説明が長々とくっついて、それで文章が長くなってしまっています。

そして長過ぎるためにその光景を思い浮かべる事が困難になっています。

試みにこの文の修飾語をいくらか削ってみると、

<それにしても薄汚いオヤジと太り肉の中年女が絡み合っている姿を想像しただけで吐き気がした。>

と、なります。僕はこれくらいの長さで十分だったと思うのです。

“昔はそこそこの~何一つ残っていないような”のくだりは、この文までに母の容姿について説明していないからここに已む無く入れたのでしょう。

しかし、それによってこの文はややこしくなり、全体のテンポの良さを崩してしまっています。

無理してここで説明するのは避け、別の所に移すべきでした。

短い文に時折、長い文を交えてリズムを変える事は悪い事ではありません。上手く使えばそれはアクセントとなって読者の注意を引く事ができます。

ただし、当然多用は控えるべきですし、何より長くなりすぎて文意を損なう事に注意すべきです。

更に、こういう長すぎる文章を見つけるにつけ気になったのは、作者の方は作品の読み返しをしたのか否か、です。

この疑惑を強めたミスがあります。

4ページ目の中ほどにおっさんの話し言葉の説明がありますが(この文章も無用に長いですが)、おっさんの名前の所に“崎本”が入っています。

後に、大家さんによっておっさんの名が“中添”である事が発覚しますが、僕は一瞬これは何かの罠かと思いましたよ(←ミステリ中毒)。

他にもこまごまと気になる所がありました。

改行とか一行空けるところとか、推敲すべきじゃないかなぁという点も幾つか在りました。

しきりに言われるようにやっぱり読み直しや友人知人に読んで貰う事は大切だと思います。

自分で声に出して読み直してみるのも良いと思います。

さて、そんな感じで文章は加点と減点でプラマイゼロという感じでした。

では4位という判断に落ち着いた理由はというと、それはやはり新奇さに欠けていたという一点に尽きます。

この作品の最大の欠点は、タイトルと最初のページでどんな話なのか読めてしまう点です。

バイバイ、かまどうま」というタイトルでかまどうまが最初に登場した時点で、「ああ、大切な人との出会いで日常を脱する系か。退屈な日常の象徴がこのかまどうまなのだな・・・」と想像できます。

その後は、予想をなぞるようにストーリーが展開していくだけ。

予想外な展開はかまどうまを踏み潰したところくらいです。

あれは踏んだら駄目ですよ。気持ち悪いです。そして可哀想に。合掌。

・・・ともかく、全体に既視感が漂うんですよ・・・。これではちょっと高い評価は出来ません。

物語としての出来上がりに問題はありません。しかし、「おっ、これは!」という事は特に無い。

テーマの「あした」というのがかなり人口に膾炙している分、ステロタイプな所に落ちちゃったかな、という感じです。

最後にもう一つ気になったのは、おっさんの出身地。

おっさんは標準語を使う。

これは主人公の関西弁との対照を狙ったのでしょう。節回しにお国言葉が滲み出ているとしてやや変化を持たせて辛うじてベタベタを回避していますが、そのお国が兵庫県って言うのは近すぎやしませんか?結局同じ関西圏じゃん。お国言葉も何も、ほとんど同じなのでは?

もっと遠く、東北や北海道、沖縄とかそういう人あたりが柔らかそうな所を勝手に想像していたので、兵庫県と出た時は正直「えっ、近っ!」って思いました。

200万もお金あるのに・・・フィクションなんだから、夢なんだからもっと遠くへ行ったらいいのに・・・。

それが兵庫県っていうのも、田舎とも都会ともつかぬなんともイメージの曖昧な県です。

九州在住の僕もそうですが、「兵庫県の海側」と言ったら神戸市とか都会っぽいイメージを普通は思い浮かべるんでは無いですか?まあ、多分兵庫県兵庫県でも日本海側の田舎をイメージして作者は持って来たんでしょう。けれど何かしっくり来ないです。

そういうわけで文章は軽快さが良い。たまの長文が×。物語は平凡。設定が甘い。・・・ですね。

評論が長くなったのはそれだけ勿体無かったということです。今後も頑張ってください。