Yahoo!文学賞レビュー3
■西山茜『トマト』
僕は5作品中3位評価としました。
創作意欲が伝わる作品。
アイディア:★★・
物語展開力:★★★
文章スキル:★・・
作品の空気:★★★
詳しい評価は続きに↓↓↓
こういう小説を書きたいんだ、という目指す小説の方向性が文章からヒシヒシと伝わってきます。
その一生懸命さ、荒削りな所はまず好印象でした。
冒頭の入り、
<世の中は皮肉に満ちている。医学が進めば進むほど病人は増え、情報が増えれば増えるほど事実は霞む。>
とか、キメようとしているんだけど、キマってない所が随分荒削りでした。
これは、中身との対応が不十分だからキマらないんですね。僕はこの文章でこの作品は医療モノかと早合点しちゃいました。
最後に、<世の中は不思議に満ちている。> という締めを持ってきているのですから、この作品で言いたいのは「不思議があって良いじゃない」なのでしょう?
この締めを活かためにも、冒頭は不思議を否定するものが良いかと思います。
例えば、
<世の中に不思議など無い。物事が不思議に思えるのは、情報が不足するか分析が不十分かのどちらかに過ぎない。合理化が進む今の世で、そんな不完全で感情的な解釈は許されないのだ。>
とかにしたら中身とも対応しますし、締めとも呼応します。
このように、文章の洗練とか言葉の選定には、まだまだ深みが足りないように感じました。
比喩にもちょっと変なのがありました。
だから5作品中トップレベルの赤ペンを食らっています。
でも、「現状で実力がおっついてなかろうが、私はこんな作品を書きたいんだっ!」というのが逆にようく伝わりました。
プロットは『アシタ』とごっつくらい。うまくまとめたかな、という感じです。
タイトルとオチの結び付きも良いし、物語の出来上がりは良かったと思います。
語りがお腹の中の子供、というのは良いトリックでした。これ位の工夫は必要だと思いますね。ただ、自動詞・他動詞の使い分けや主語の選定に失敗しているために、時々夫目線、主人公目線の語りが同じ段落に混在してしまって、上手く効果を発揮していないのが残念でしたけど。
後は、心境の変化の切り出し方や間合いの取り方とか、こまごまとした設定とか、まだまだ工夫の余地があるように感じました。それが3位という結果ですね。
もっと数多く書いて、自分の文章を確立して下さい。