Yahoo!文学賞レビュー4
■しま☆はるよし『夢の演出家』
僕は5作品中2位と評価させていただきました。
アイディアが光る一品。
アイディア:★★★
物語展開力:★★・
文章スキル:★★・
作品の空気:★★★
詳しい評価は続きに↓↓↓
アイディアは非常に良かったです。
タイトルからちょっと「ん?これは何のことだ?」と思わせてくれます。
それはそのまんまの意味である事が1ページ目で解るのですが、それをどうやってテーマの「あした」に絡めていくのか。そしてどんな小説にするのか、ちょっと簡単には予想させてくれませんでした。そういう意味で新奇性は一番だったと思います。
演出失敗から始まって、演出成功を一回はさみ、最終的には夢の裏方の夢で、夢の視聴者である幸子が立ち直るというプロットも今回の5作品では一番だったと思います。
では何をもって2位としたかというと、語り方と文章に難があったからです。
まずは語り方について。
この作品は、二つの目を交互に描写するともっと楽しさが増したのではないかと思います。
二つの目、つまり夢の裏方達を見る第三者目線と現実の幸子目線との二つです。
しかし現物の作品は、幸子の日常も第三者的目線で描かれているから、ちょっと感情移入がしにくくて損しています。
まず、≪本人というのは佐伯幸子。≫から始まる夢の本体が佐伯幸子だということを示す段落。この段落が説明的過ぎる。
むしろ、<私、佐伯幸子は落ち込んでいる。夢で落ち込むなんて馬鹿みたいだけど、今日見た夢はさすがに堪えた。>とかから入って、夢の内容の説明と近況の整理を並行して行ったほうがいいと思うのです。
その他の段落もすべてそう。徹底して幸子の目線を貫いて欲しかった。
幸子の日常を幸子の目線で描き、夢の演出家たちの様子を第三者的目線で描くと、読者は基本的に幸子の目線でこの本を読んで行き、最後の演出によって「第三者とは幸子であったか」と驚く事ができるのだと思います。
物語をどの目線から見たら面白いのか、それに注意してみるべきだったと思います。
そういう書いてないけど実は・・・という仕掛けが小説を面白くするのです。
その意味で、チーフディレクターの原型が幸子の父親であることを早々に説明してしまっているのも減点です。
これは伏せておいても読者は結構気付けます。むしろ、どんなに鈍い人でも最後に幸子が<父親がディレクターのように・・・>と描写する時点で、「ああ、だから町工場スタイルか!」と気付くのですから、そこまでびっくりは取っておいた方がいいです。
全体的に説明的過ぎるんです。それも先回り、先回りしている感じです。
しかし小説では、後に後にとっておいた方が良いものになる事もあると覚えて下さい。
そして文章。
夢の解説は夢占いの本からそのまま持ってきたようなところが幾らか目に付きました。
エストロゲンとかセロトニンに関する説明はやや弱い。アセチルコリンに至っては説明が無いし、ドーパミンはドパーミンになっちゃってる。ちょっとカタカナが多過ぎました。
読者を選ばない解り易さ、というのも気にするべきだと思います。
そういう語りや言葉が小説のぎこちなさに繋がり、アイディアの得点を取り崩して2位になってしまいました。
読者にとっての読み易さを実現できればトップを取れるアイディアだったと思います。
しかし、今回の文学賞の形態を考えると、今の完成度よりもアイディアを優先して評価すべきだったかなぁ・・・。