村上龍『半島を出よ』(幻冬舎)/読了*ネタバレ版*
おれの世界だからおれが自分で壊すんだ /カネシロのセリフから
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この記事は、村上龍『半島を出よ』(幻冬舎)に関するネタバレを含む可能性があります。
『半島を出よ』を未読の方は、ここで帰られることをお勧めします。
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こっちはネタバレを気にしないでさっくり気ままに書きます。
装丁のことは誉めましたが、オビの文面はちょっと引っかかりますね。
上巻はともかく、下巻のオビの紹介文は正確でないです。
「危険な恋」とか、「決死の抵抗」とか、「聖戦」とかは微妙に本筋を読み違えていると思います。
「危険な恋」に割かれたページ数は少ないし、「危険な恋」ではあるけれど実際に危険な状態になる前に事態が急変しちゃったし。
「決死の抵抗」って、「本当は死にたくないけど守るもののために死ぬ気で抵抗します。」ってニュアンスでしょう?「死ぬかも知れないけど、とにかくやってみたいんだ。」という死への恐怖が希薄な彼らには相応しくないです。
「聖戦」なんかは全く当てはまらない。
イシハラグループの連中は単に壊したかったから壊したんです。
社会に何の益ももたらさない、いわば負の衝動を抱えた彼らは、
緩慢に弱っていく社会の片隅で、おぼろげな、しかし確かに心の奥底からの衝動を、
ずっと持て余しながら生きてきたわけです。
この小説の中で彼らは、その負の衝動をたまたま現れたコリョに向けて吐き出し、そして充足しました。
破壊の対象がたまたま福岡にとっての負の要素だったから、福岡の利益に繋がったわけで、
そういう意味で彼らの戦いは自爆テロ犯のそれより性質が悪いモンですよ。むしろ「悪の枢軸」ですよ。
何より、「聖戦」なんて言われたら彼らが困惑すると思いますけど?
しかし、イシハラグループはいいキャラ揃ってました。
僕はあんまりコワレてないので彼らの仲間入りは無理でしょうが、それでも十分に共感できした。
一番気に入ったのはカネシロですね。今日の引用は彼のセリフですが、こんだけイカレてると好感持てます。自分の中にもこういう感覚は在りますが、常に良心を以ってこの感情を抑制しています。
でも彼らの言動に触れると、その僕の一部が反応するんですね。ざわつく感じ。
だから彼が死んだ時はほっとしました。
まあ、彼自身にとっても、畳の上でなく、壊された空間の中で死ねたのは、幸福だったでしょう。
良かったな、カネシロ。
イシハラの自由っぷりも良かったです。
あの猥雑な比喩と連句がなんとも言えない妖しい光を放っています。
モリもインパクトあったな。
章の語りに抜擢されるも特に何をするでもなく、結局解説役に終始した割に、肉片になっても名前が登場し続けるという稀有な扱われ方をしました。その微妙な愛されぶりに、合掌。
ヒノは唯一、傷が癒え、日野に還る事ができ、殺伐としたまま物語を終えていったイシハラグループの中の、一服の清涼剤となりました。合掌。
福岡の人たちの中では、やっぱり天山市長ですかね。
エピローグで九州を活性化させ、やられっぱなしで捨て犬のような気持ちになっていた九州人としての感情を浄化してくれました。そうだよね、ポテンシャル高いよね、九州は。
あとは細田さん、恋、実らせてください。
キスしたっきり、村上氏に投げられちゃってたけど。
俺は信じてる。
シーホーク倒壊の一報があった直後、テレビ局の収録スタジオで二人が愛のドラマを展開していたことをw
中央の人たちの中では、円卓の騎士たち全員良かったです。
あの日本の政治屋さんっぷりがナイス。福岡人として思わず殺意が芽生えてしまいました。
殺意といえば、宮崎産のメロンを持ってきた男。何が最後の宮崎産じゃ。
中央め~、九州人を見捨ておって~。コロシテヤルゥ!
最後に九州だけ元気になってて、ちょっと殺意が癒されたけど、それでもヤツラの無能ぶりはむかつく。
コリョの中では、チェ・ヒョイルですかね。
あんた軍人の鑑や。頼むから日本にはこんといて。
次点は軍医のリ・ギュウヨンさんです。
虫にびびり、原因不明の病人の世話に追われ、最後はいきなり撃たれて死亡という、薄幸振りが僕のハートにヒットしました。
まあ、全体には満足でした。もう少しシーホーク倒壊直後の話があっても良かったかな~、天山市長の反応とか。ま、それもあの分量で抑えようとしたら優先度は低いですかね。
次は、『昭和歌謡大全集』でも探そうっと。
では。