あの木の下に/夢日記

アナログ夢日記より転載。

一番古い夢日記にして、5本の指に入る恐ろしさだった。

ちょっとホラーです。

■021218....■

夜。

男が二人いる。

ベージュのコートを羽織った背の高い男と、スーツの上下が寒いのか猫背を縮めている背の低い男の、二つの背中。

視界が滑るように彼らに近付き、その顔を斜めに見上げるようにして止まる。

共に年の頃は三十代前半。

しかし、外見は大きく異なる。

背の高い方の一人は背が高いだけでなく肉付き良く、相撲取りと言ってもおかしくない体躯である。ただ、堂々たる体躯とは裏腹に顔は小ぶりで童顔。二十代と名乗っても十分通用するだろう。今も、にこにこと邪気の無い笑みを浮かべている。

一方のやや背の低い方は痩せている。

背が低いと言っても170はあるだろう。しかし、痩せた肩と猫背がそれをあまり感じさせない。もっと矮小な人間に見せている。頭にはちらほらと白いものが混じり、顔に刻まれた皺も多く、深い。眼鏡の奥の眼光も鈍く力無く、10は老けて見える。固く結んだ唇は蒼褪め、わずかに震えていた。

二人は足元を見下ろしている。

その目線の先を見るべく、視点は彼らの後輩上方へと移動する。

彼らと同じ、見下ろす視点。

木の下に横たわって動かないそれは人間の死体だ。

茶がかった長い髪、血のように赤いスーツとスカート。赤く塗られた爪と唇。その唇から一筋のラインが顎へと向かっている。血だ。血はまだ顎の先へと進んでいる。乾いていない。死んでから間もないらしい。

途端に、背の高い男がその女の首を両手で掴み持ち上げている光景がフラッシュバックして見えた。

もがく女、それを見てうすら笑う大柄の男。

「なあ、手伝ってくれよ」

殺人者が言った。女を殺す時の、あの薄ら笑いを浮かべて、俯いて震える男の顔を覗き込むようにしながら。

「初めてじゃないんだ。何を怖がる?」

1度や2度の話では無いようだ。

殺人者は木の方へと一歩足を進め、そして背を向けたまま話を続ける。

「それともみんなバラして欲しいのか?」

言いながら振り向いた。猫背の男は俯いて震えたままだ。

木の葉は全て落ちている。

僕は痩せた男の弱みはなんなのか、想像を巡らす。会社での不正か、もっと前の学生の頃の話か、それともこれまでの共犯関係の事か。

それはわからない。しかし、考えている間に彼らは女の死体を車のトランクに積み込み、そして車をスタートさせた。

車は夜の街を山へと走る。

運転する痩せた男が震える声で聞く。

「どこへ行く?」

助手席で太った男がめんどくさげに答える。

「いつもの所だ」

痩せた男が語気を強める。

「バカな、またあそこだと!?」

「これまで見つからなかったんだ。これからも大丈夫だ。それに慣れない場所だと帰って不安だろ?勝手が違うからな」

目を細めて運転席を見下ろす目が冷たかった。

芝生が生えている。

ゴルフ場だろうか?庭だろうか?暗くてあたりの様子が見えないため、杳として知れない。

二人は木の下にいる。

痩せた男はじっと立ち尽くしている。

彼は太った男がスコップで土を放っている所を見守っている。同じく手にスコップを持っているのに。

死体は、もうその土の下なのだろう。

辺りを見回すと、他にもたくさんの死体が埋まっているのが解った。

女だけではない、男もいる。

みんな一様にわずかに俯いて立ち尽くしている。

それぞれの体が埋まった土の上に立ち尽くし、新たな仲間が埋められる様子をじっと見守っている。

そして、土の下からも赤い服の女がスコップから振る土を見上げていた。

若い女性が運転する車の中に僕は居る。

陽射しが心地良く、ドライブには最適の日。

助手席には件の痩せた男が、運転席のすぐ後ろの座席には太った男が座り、姿無き存在の僕は残りの助手席の後ろに座っている。

痩せた男の顔色が悪い。どうしたのだろう?

太った男の方は何とも無いようだ。それはそれで不気味と言えるが。

太った男は今日の視察の行き先を運転席の女性に訊いている。秘書だろうか?

その若い女性は明るく笑いかけながらこう答える。

「もうすぐですから楽しみにしていて下さい」

そう言った彼女の向こうに、つまりは車の窓の外に、ありうべからざるものを僕は見て戦慄した。

そして、助手席に座る痩せた男にもこれが見えているのだと瞬間的に悟って納得した。

にっこりと笑う彼女の肩越しに、あの赤い服の女の生気の無い土気色の顔が浮かんでいた。

車は次第に郊外の山へと近付く。

夜と昼の違いはあるが、かすかに感じられる既視感。

痩せた男の顔色はますます悪くなり、もはやほとんど死人と同じ土気色になろうかとしている。

太った男の顔は見慣れた景色に少しずつこわばってゆく。

これはもしや、昨夜通ったあの田舎道ではなかろうか?

車が止まる。

そこは民家の前だった。

何の変哲も無い田舎の平屋の農家住宅。

車を止めた女性は真っ先に車を降りて駆け出した。

「ここよ!ここだわ!」

そう叫びながら、敷地の中へと入って行った。

「おい!待てッ!」

太った男は自らドアを開き、車を降りて彼女の後を追う。

数拍を置いて僕も車から降りて走り出す。

車の前を通り過ぎた時、背後でドアの音がした。彼も来るのだろうか?

敷地に入ってすぐ、納屋の前に老女が立っていた。

庭の方を向いて「あんた、あんた」と弱弱しく呼びかけている。

その老女の傍、納屋の壁に土の付いたシャベルが立てかけてあるのに気が付いた。

シャベル……。

ここがやはり昨夜の……。

そう考える間に思わず立ち止まっていたらしい。喚き争う声に僕は、はっとして振り返る。引き裂くような女性の声と押し潰すような男の声。

僕は再び走り出す。

「やめろ!」

「やめないわ!」

庭の木の下で女と男が争っている。

女は地面に這いつくばって、道具も何も使わずに素手で地面を掘っている。土と血に塗れて、半狂乱に叫びながら。

男はそれを止めさせようと、彼女を地面から引き剥がそうとしている。丸い顔は今や真っ赤になり、汗が噴出している。目は釣り上がり、今にも彼女の首に手を……

しかし、その前に彼女は掘り出した。あの昨夜の女性の赤くマニキュアが注された手を。

「やっぱりあんたが殺したんだ!」

血と土に汚れた手で彼女はその土に塗れた手を包み込みながら、背後の男を見上げて叫んだ。

「昨日メールが来たのよ!」

夜道を歩く彼女の姿がフラッシュバックするように視覚された。

携帯が鳴り、彼女はバッグからそれを取り出し、開いて、中身を確認する。

「『今、殺された』って!」

アルミ缶をハサミで切った時のような激しい金切り声が響いた。

怒りに燃え、嘆きにはちきれそうな女性の背後には、赤い口紅の女が寄り添っている。

そして青筋を立てる太った男は震えながら立ち尽くし、枯れたように脱力した痩せた男は呆然と揺らめいている。

そしてこの四人を、そう、昨夜のように彼らがぐるりと囲って見守っている。

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今書いてても気持ち悪いね、これは。

絵が書けたらもっと気持ち悪く出来るけど。

こんな感じで昔の夢日記をぼちぼちアップしたいと思います。

月に一個くらいとかで。結構大変なので。