饒舌な闇/散文
昔、饒舌な闇を見ていた。
今、懐かしい記憶を探る。
それはよく喋り、よく聞こえた。
私の中にある他人だった。
姿は見えなかった。
だがその存在は私を圧迫した。
私は闇の向こうを見ようとした。
眼を巡らせて視界を回転させた。
上が右になり左が上になり下が左になり右が下になった。
耳がよじれて首が曲がる。
鼻は何者も嗅ぎ出さない。
伸ばしたはずの手も見えず、伸ばしたという認識が疑われる。
足腰は自重を見失う。
耳に手はあるだろうか?
声はどこから来るのだろうか?
柱の中から声が聞こえる。
柱の中に声が詰まっているのだ。
聞いた事がある声、聞いた事がない声。
柱が喋っているのに違いないのだ。
僕は言った。
それは幻覚だと。
目を瞑ると闇が見え、耳を塞ぐと声が聞こえた。
鼻口を閉じると、痛みを覚えた。
夜は饒舌だった。