時を駆けさせる少女/夢日記

DATE::080307.fri

友人が死んだ。

俺は彼が墜落していく瞬間を見た。

彼は上の階から落ちてきて、落ちていった。

それを俺は手すりと天井の間に垣間見た。

鈍い音の直後に甲高い悲鳴が上がった。

俺は階段を駆け下り、倒れた友人の肩に手をかけた。

頭部から血が流れ出していた。そして、少し間をおいて胴からも。

俺は言葉を失っていた。

「どうして?」

背後からよく知った声が聞こえてきた。よく知ってはいるが、これまで聴いたことがないくらい震えた声。俺は振り返った。そこには級長が立っていた。

「どうして?……あなたが、殺したの?」

彼女はそう言った。

俺が「違う」と言うが早いか、彼女はいつの間にかできあがっていた人だかりを駆け抜けていった。

その後のことは覚えていない。

俺は刑事から事情を聴かれて、見たままを話した。

上の階から落ちてきたのだと。

開放されて廊下に出ると、友人の恋人だった少女が立っていた。

「あなたがやったの?」

声は詰問調ではなく冷静そのものだった。

「違う」

俺は体を縮めて搾り出すように言った。

「そうでしょうね。でも、彼女はあなたがやったと思い込んでいるわ」

彼女の静かな声が聞こえる。俺は苦しくて顔を上げることができない。

「だから、過去へ行って犯人を捜し出し、阻止して来て」

そう聞こえた。俺は顔を上げた。

少女は俺の眉間を真っ直ぐに指差していた。少女の背後からは白い光が放たれている。その白い光が強烈過ぎて彼女の輪郭が藤色にぼやけていた。

「何だって?」俺は聞き返した。

「過去へ―」

それだけが聞こえて俺は藤色から藍色藍色から濃紺、そして濃紺から漆黒の闇へと加速度的に落下していった。

そしてすべての光が届かなくなり、自分の存在が漆黒に塗りつぶされたと思った瞬間に光の中へと放り出された。

眩しさと落下の感覚の残滓とにふらつく意識を建て直し、俺はあたりを見回した。

そこは校内で、柔らかなさざめき声が遠く聞こえる平和な時間が流れていた。

俺は廊下にしゃがみこんでいる。

とても静かで、平和で、さっきまでのような生徒の転落死に浮ついたざわめきはどこにもない。ここは本当に過去なのだろうか?彼女が言ったように。だが、彼女にそんな能力があるだなんて信じられない。常識外すぎる。これはどういうことだろう?

疑問が脳裏を駆け巡って、僕は動けなかった。

「どうかした?」

またもや背後から声がした。よく知った声。だけど、今度は緊張など欠片も無い、馴染み深い柔らかな発音だった。

振り返るとそこに級長が立っていて、見上げた彼女の背後にある窓ガラス越しの空が青く澄み渡っていた。逆光の中で彼女は笑っていた。

「座り込んじゃって……。体調でも悪いの?」

最初は冗談交じりだった彼女の声が次第に本当に気遣いを含んだものに変わっていく。上体を傾けてこちらの顔を覗き込んでくる。少し眉根を寄せた顔が可愛い。

「あ……いや、何でもない」

俺は首を振って立ち上がる。

「おーっす」

そこへ能天気な声が近づいてきた。友人だ。彼女を連れている。

「どうしたんだ?ぼーっとして」

生きている友人だ。幽霊でもない。そして、さっき俺に何か―得体の知れない何かをやってのけた彼女がいる。その驚愕で俺は一瞬我を忘れていた。

「でしょ?変でしょ?」

級長が友人に同意してみせる。

俺は不思議そうに俺を見る友人の顔と不敵な笑みを浮かべたその彼女の顔とを交互に見比べた。

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高校生という設定。

男子は学ランで女子はセーラーだけど、現実の母校とはデザインが違った。

母校のセーラーは上下ともほとんど黒に近い濃紺だったが、夢に出てきたのは青みが随分と強かった。

ただ、どうも登場する二人の女生徒にイメージカラーがあるようで、その色の補正を受けていたから級長は青みが強く、友人の恋人は紫がかっているように見えた。

二人は髪の色も黒だが、背後に強い光があるシーンでのハレーションの色も、それぞれ水色と藤色とで異なっていた。

友人も、紅色のイメージを持っていた。

それにしても、夢に出てくる女性はいつもいつもめちゃくちゃ綺麗だなぁ。

現実には居ないけどな。

俺も夢の中ほど格好良くないしな。

ドリィィィィィィム。