上橋菜穂子『精霊の木』偕成社/読書感想
まさかのSF作品。
ファンタジーで有名になった作者の大学院生時代の作品は、研究分野を勉強する過程で感じた憤りをこれでもかと詰め込んだSFだったのです!
面白かった。
非常に興味深い。
情報がてんこ盛りで詰め込みすぎのきらいはある。
小中学生ではこの作品の意図を汲み取ることはすごく難しいし、西洋文明がアメリカ大陸やオーストラリア大陸で行ってきた行為をきちんと説明できる大人の読者もなかなかいないでしょう。
そういう読者に優しくない熱い作品です。
そういう若さだけではなく、生活能力再生が義務付けられているなど、細かい社会背景にも気が配られていて凡百のSFではないです。
作品中で異星人との混血者が現れるのですが……たんぱく質という材料が同じである限り、宇宙の隅から隅まで探せば地球人と交配できる異星人が存在する可能性は絶無とは言えないです。
三眼も精霊との共存が生存に有利であったがために獲得された形質とみることもできる。
そして、元来た世界の正体が――などというハードな鑑賞にも耐える作品です。編集者がこれで何本か書けると言ったのは嘘ではない。
でも、それを一つにまとめてしまうのが若さだと思いますから、これをそのまま出した編集者の方、ぐっジョブです!