井上雄彦『最後の漫画展』at熊本市立現代美術館/観覧感想
行ってきた!
すばらしい!
漫画の新しい可能性というか……なるほど!って感じだった。
漫画というのは、ただの絵ではない。
それは絵の連続で時間的経過を示している。
漫画というのは、ただの物語ではない。
絵が中心となることで、情景描写を簡略化し、小説よりも早く、実体験に近い速度での観賞が可能だ。
漫画は映画やアニメとは違う。
個々の視覚的理解の速度にあわせて、自由にページを繰ることができ、それによってそれぞれの速度にあった理解を促す。早くてよく分からなかった、遅くていらいらしたということは少ない。
そういう漫画の特徴に、この漫画展はさらに「空間的広がり」を追加した。
これがすごい。
もともと、絵画などの展覧会には展示(配置や絵画周りのテクスチャ)によって空間的広がりや絵画の印象を強調する手法が存在している。
美術館そのものの空間的広がりを利用して、絵をより印象的に見せる方法。
それを漫画に応用することでこれほどダイナミックに見せることができるとは。
さらに、書籍の漫画では、主人公が振り返る絵を描くことで主人公に感情移入している読者を振り向かせ、そして振り向いたところに居る人物を描いて見せる。
しかし、この漫画展では空間的広がりが追加されたことによって、読者が物理的に振り向いて振り向いたところに居る人物を見せることができた。
この読者と主人公の一体感は新しい。
こういう連続する見せ方というのは、写真展や映画関連の展示ではすでにあっただろうから、盲点といえば盲点なんだけど、これは本当にすごい。
なんていうか、アニメや映画でカメラをぐるりと回して振り返らせる技法に似ているけれど、カメラが回るんじゃなくて読者が回ってるからな。それは、新しい。
それから、絵画の鑑賞作法として、遠くから絵に近づき、全体から細部へと見ていく、そして細部を見たあとで、絵の全容を見るために再度少し後ろへ下がる。こういう遠近の反復を、絵のサイズの違いによって増幅しているというのもすごかった。
小さいサイズの絵を見るために読者は近づく、次の絵が大きくて視界を制圧されて圧倒される。一歩下がる。全体が見える。
漫画のコマ割りの目的というのは、こういう視点の揺さぶりの擬似的再現にあるのだけれど、その手法をさらに大きなキャンバスで使うことで印象を強めていた。
絵としては、細かい濃い筆と太い淡い筆の使い分けが印象的。
おじいちゃんを描くのが本当に巧いよなぁ。
それから、和紙をわざとけばだだせて絵の一部にするなんて!
素材も絵の一部なんだよなぁ。
それはフォトショップの効果の中に「スケッチ」っていう、スケッチブックに書いたみたいな紙の素材によってかすれた効果を与える機能があるんだけど、そういう技術的再現の欲求に現れているように、絵の下地の素材による影響も絵画の一部なんだよな。今回の展覧会で使った和紙にもにじみにくいものとにじみやすいものと二種類使ったらしいんだけど、その素材の違いもしっかり使いこなしていたんではなかろうか?
すごい。本当にすごかった。
表現手法って、可能性はいくらでもあるな!
この展覧会でバガボンドの最終巻が俄然楽しみになりました!
大阪と仙台での重版も決定だそうです。
これは、ぜひバガボンド全巻を読破して観覧してください!
超オススメ!
どケチな俺が4500円の『いのうえの』を買ってしまうくらい心を動かされたもの!
いや、記憶が視覚だけじゃなくて身体的感覚を伴っているから、この『いのうえの』があればいつでも思い出せるよ。
そういう印象的な1時間だった。
ああ、でも、企画系の会社にいるから満月版だけじゃなくて三日月版も買うべきだったかも……うーん……弟を送り込むかな……。
ていうか、もう一回見てもいいかも、とか。
感想終わり。
関連エントリ⇒『伊藤比呂美・井上雄彦『漫画がはじまる』/読書感想』