雨、沁みこんで/daily

帰る頃には雨が降りしきっていて、自転車で濡れて帰ることになった。

雨はいい。

肌に触れた後、冷気が沁み込むように体温を奪う。

髪の毛を束ねながら水滴が集まって毛先から落ちる。

濡れた路面から自転車のタイヤが細かい飛沫を立てていく。

あのかぼそい連続的な音が好きだ。

指の感覚が鈍って却って熱っぽく感じ始める。

でも、ハンドルのグリップは問題ない。体温が低下するのには慣れている。

駅に着く頃にはマフラーの先から雫が落ちるまでになっていた。

体は冷たさに慣れていて、その清涼感が心地よいくらいだ。

凍て付いた触覚と鼻水で効かなくなった嗅覚。

そして目を閉じて視覚を絞ると聴覚がやけに研ぎ澄まされている。

雨がさまざまな物を打って鳴らす音が心地よい。

タントタン。トタンを打つ軽く広がりのある音。

パチピチチ。アスファルトを打つ高い弾ける音。

雨どいを伝う流れの音。

縁から満を持して落ちる雫の音。

高低と大小、様々な雨音が耳に心地よい。

駅から家までの道も雨に打たれた。

そして家に帰ってしばらくだらだらしているとどうにも寒気が……。

昔は雨に濡れても拭きさえすればあとは体温をあげて対応できていたものだが、どうにも年を取ったせいかなかなか体温が上がってこない。

仕方なく早めに風呂に入り、あったまった。

冷気が沁みこんでできた温かみの空白域にすばやくぬくもりが伝播する。

寒さで縮こまっていた筋肉が喜んでいるかのように膨張し、伸びを促す。

この瞬間に生き返ったような心地がして、ここまでが雨の愉しみなのだ。