夢日記siesta051214

>授業中昼寝してたら悪夢を見た。

以下、「続きを読む」でどうぞ。

■14/Dec.Wed~Siesta

閉鎖された建物に一人そっと忍び込んでいる。

最近まで使われていた大学構内の建物。築30年は超える薄汚れたコンクリートの塊。

狭い廊下は薄暗く灰色だ。真昼だというのにこれほど暗いのは、外が吹雪だからなのだろう。

僕はある部屋の前に立っている。鍵が無いので中には入れない。

何の部屋だろう?夢の中では記憶は断片的にしか与えられない。

その部屋について想起されるのは鉛筆のイメージ。

それではここは製図室―いや、または美術室か。

入り口の横の壁に、正方形の黒ずんだ汚れがあるのに気が付いた。部屋の名前を示すプレートがついていたのであろう。僕はその冷たい痕跡を指で撫でる。

そうしているとふと、頭の中に声が響いた。

“本当は好きなくせに―”

あれは誰に言われた言葉だったろうか。考えてみるが思い出せなかった。

思い出せないのはそれが事実では無いからだろうか?

それとも自分で自分に問い掛けた言葉だったろうか?

(確かに、僕は絵を描くのも好きだった。でもそれ以上の意味は無い。)

僕は今になって漸くその問いに応えたようだ。

ベージュの塗料が所々はげかけているドアの向こう、細い廊下と三つの部屋が並んでいるのが覗き窓から見える。

人気に餓えているのだろうか。沈黙する部屋たちが僕を吸い込むように見つめているように感じた。

すっと空気が変わったような気がして閉ざされたドアから離れる。今更ながら寒さに震えた。

もう帰ろうと思って階段へと歩く。廊下の空気はしん、と冷たく冴え渡り、止まっている。

階段の前に来た。

音が、聞こえる。

階段の前に一つの部屋がある。先程の部屋と同じように部屋名を示すプレートは無い。しかしそこは音楽室なのだろう。

聞えて来るのは駆けるように速く、激しいピアノの音だった。

その旋律は空気を切り裂くように鋭く速い。鍵盤は激しく叩かれ、残響を追い越すように次の音が弦から発せられている。

僕はドアの前に立ち止まっていた。

ドアは、開いているのだろうか?

開いていればそれは僕のように奇特な人間が、この建物と別れを惜しむようにピアノを弾いているのだろう。

しかし開いていないのならば―、それはきっと恐ろしいものが弾いているのだ。

長い黒髪を振り乱して、虚ろな目をした女性がピアノを一心に弾く姿を想像する。背筋を悪寒がざわざわと走り抜けた。

ノブを回せば確認できる。回れば人、回らねば鬼。単純な二択。

しかしもし鬼であったら、ノブを回すのはとてつもなく危険だ。

それにこのノブは回らないという予感があった。

僕はドアに背を向けてゆっくりと音を立てぬように気をつけながら階段を降り始めた。

ここは4階。一段一段階段を降りていく。ピアノの音は止まらない。

踊り場、3階、踊り場、2階。

あと、1階。

そう思った瞬間に辺りが静かになった。ピアノが止んだ。

僕はすぐに天井を見上げて耳を澄ます。ピアノは止まっている。

咄嗟に身構えた。見様見真似の空手の構え。これでも気休め程度に心が落ち着く。

周囲を油断無く見回し、壁に背を向けながら階段を降り始める。

二歩目に寒気が来た。背にした壁から何か二つの暗い気配が伸びて来て、僕の肩口から首へと回り込む。

僕は階段から跳び降りた。踊り場に着地し、一瞬階上に目をやる。何も無い、ただの壁。

留まっては危険だと判断した。目線を階下へと移し、次の階段は最初の3段を飛ばして、残りは飛び降りる。

そこは1階の筈だった。なのに開口部があるべきところに壁がある。

ぞっとした。それは、「はめられた」という直感的理解と、「見られている」という動物的感覚が同時に作用したものだった。

とにかく動きつづける。

3段飛ばして、飛び降り、踊り場。

3段飛ばして、飛び降り、1階。

3段飛ばして、飛び降り、踊り場。

3段飛ばして、飛び降り、1階・・・。

どこまでも階段は続いていて、終わりが無い。

止まらないから襲われる事も無い。

ずっと階段を飛び降りて、ずっと地下へ降りて行く。

ずっとその目線を感じたまま、ずっと地下へと降りて行く。