在・不在

"To be, or not to be, that is the question."とは、シェイクスピアの戯曲『ハムレット』に登場する希代の名言である。

通常は「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」と日本語訳されるこの一文。しかし、文脈においてその意味するところは判然とせず、この一文を如何に解釈するかは古くから議論の的となっている。

もしこれが"To do, or not to do, that is the question."となっていれば、解釈は一つしかない。「復讐を果たすべきか、果たさぬべきか、それが問題だ」となるものだが、それをdoではなくbeを使ったのにはやはり、シェイクスピアの意図があってのことだろう。

僕ならばこの一文をこう訳す。

「かく在るべきか、在らぬべきか、それが疑問だ」

今そう在るように、目的とそれを遂げる意志を持った自己が存在してもよいのだろうか、それとも何らかの形でこの自己を捨てるべきであろうか。それを煩悶している。

ここでハムレットが「生きる」と口にした時、それは復讐を遂げるために生きるという意味だろうか?しかし、復讐を遂げた後に生きる意志が無いというのにそれを「生きる」と表すのには違和感が在る。

ここではこの時点でハムレットの生きる目的は復讐の一念に囚われている。そしてそれを肯定する自己と否定する自己との間で煩悶しているのだ。

僕はそう解する。