彼女の実家/夢日記

DATE::080110.thr

年末の街は急ぎ足の人ばかりだ。

僕は待ち合わせ場所を探してさまよう。

この街も様変わりしたものだ。まったくもって情けないことだが、自分の位置すら把握できずに同じ所をぐるぐる回る羽目になる。

ようやく彼女を見つけて車に乗り込んだ。

この車は彼女の持ち物だから、彼女が運転している。

空は薄曇で、年明け以降の大荒れの予報は当たりそうだと言わざるを得ない。

道路は混雑している。僕らと同じように年越しを大勢で過ごそうというのだろう。その気持ちは良く分かる。しかし、急いでいる気持ちは抑えられない。

車は下り線を進んでいたが、脇に走る線路に目をやった彼女は

「こっち行こう」

と宣言して車のハンドルを左に切り、踏み切りを曲がった。

次の瞬間に車が走行していたのは、線路だった。

この車はオフロード車ではなかったと思うのだが、まったく走る上で不快感はない。

とはいえ、僕は慌てた。

「ちょっと!前から列車が!」

単線を上り列車が向こうからやってくる。彼女は慌ててハンドルを右に切り、線路がある土手から斜めに降りた土羽を走り辛うじて列車とすれ違った。

事故らなかった彼女もすごいがブレーキをかける気配すらなかった列車の運転手に戦慄を覚えた。

次の踏み切りで車道に戻り、彼女はほっとしたようにテレ笑いを見せた。僕はため息をつく。

そうして車はどんどん田舎へと進み、丘陵地帯の住宅地に入った。坂が丘の上まで伸びていていて、その先にはいつのまにか青空が見えていた。局地的には晴れるのだろうか?

車は中腹ほどである家の駐車場に入った。彼女が車を駐車している間に僕が荷物を抱えて玄関のドアを叩く。車を運転する代わりといっては何だが、線の細い彼女にはとても持たせられない大荷物だ。

彼女の実家で過ごすのはこれが初めてだが、連絡も挨拶も済んでいたので玄関はスムーズに通過できた。が、手続き上のスムーズさとは裏腹に御母さんの視線が冷たい。これは自分に弱みがあるからなのか、どうだろうか?

冷たい視線を随時僕に突き刺しながら、御母さんは部屋へと案内してくれた。そこは家の二階、坂の下を見下ろす位置に窓があるいい部屋だった。

そこで僕は屋根の下の緑の木々を近景に、丘の下に広がる緑の田んぼの遠景を見渡す窓辺の彼女を幻視した。黒髪が風になびいて、声が湿気と熱気を帯びた大気に掻き消える幻聴。

彼女はきっとこの広く高い景色を見ておおらかに育ったのに違いない。

そう思うと、主をなくして以来長の月日で人寂しさが染み付いたこの部屋が、とてもいとおしく思えた。

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しあわせなゆめ。