川端康成『伊豆の踊り子・温泉宿・他四篇』岩波文庫/読書感想

Twitterでも書いたけど、ブックオフで買ったので書き込みがたくさん……。

ただ、えらくご年配の先生だったらしく、「影像(ビデオ)」って書いてあって驚いた。

この表記を見るのは久しぶり。

しかし、他者の視点を見るというのも久しぶりだったが、いいものだな。

「川端は空間を大切にしている」という視点は、「おっ」と思った。

そういう空間の対比や、正反対のものを対照させる表現というのは、やはり文学的な研究の賜物だし、そういう高い意識を持つということは大事だと改めて気付かされる。

さて、集録されていたのは、「十六歳の日記」「招魂祭一景」「伊豆の踊り子」「青い海黒い海」「春景色」「温泉宿」の六篇。それから川端自身によるあとがきですね。

伊豆の踊り子」は、やはり有名な作品だけあって描写や構成、緩急などはさすが。

けど、こういう身分の差という時代的な空気は伝わりづらくなってるなぁ。

共感しづらい。明確な身分制度がある時代、というわけでもないし、難しいな。

……仕事中の姿で年頃が近いと思った女性が、実は化粧を落とすとまだまだ少女だった。

でも、やはり愛らしく想い、踊り子もまた色付いていく……。

そういうアンバランスな恋愛関係はどこでも好評なんだろう。

しかし、僕が一番共鳴したのは「青い海黒い海」だな。

雰囲気の暗い作品。危ない精神。非常に狭く近い視点の描写が続き、遠景は海しか出てこない。

どこまでも茫洋で抽象的な海。

こういうダークな作品を持ってる、っていうのは教科書的な勉強では知り得ないよなぁ。

その極みは「温泉宿」だな。これは昭和初期の重たい空気が現れているのだと思うけれど……。

こういう下層の世界というのは形を変えながら今に続いている。

川端康成は、陰影に敏感な作家なのだったろう、と僕は思う。

青い海と黒い海。高低。明暗。生と死。

そして身分も人間の陰影だ。社会の明るい部分を高い身分のものが担い、その裏に暗い部分を担う人たちがいることに大抵は目もくれない。

自分自身が神童と呼ばれた陽の道から、孤児という陰を同時に背負わなくてはならなかった、人間の表裏というものを深く意識し続ける10代後半だったのが、創作に現れているのだろうと思いました。

こうなると、『雪国』が気になってきますね。

実は、本だけならうちにあるんだよなぁ。多分。探してみるか。