野上弥生子『海神丸』岩波文庫/読書感想
1時間かからずに読了。
大正期に大時化に遭って漂流し、飢えて同僚を食おうと殺そうとする……というお話。
著者がたまたま目にした関係者のメモを見てフィクションとして書き起こしたほぼ実話。
著者は実際に食人が行われたかを知らずに書いており、実際のところそのあたりの描写はあいまい。
しかし、後日譚として、漂流していた船を発見した人物から連絡があり、会談した話も併せて掲載されており、その内容からどうやら食人は実際に行われたらしいことが読み取れる。
主役の設定があいまいで、文学的に深く踏み込めているわけではない。
しかし、一個の遭難記録としておもしろい。
ていうか、時化にあった初日の時点で明日も荒れると判断したのだから帆を取り外して徹底して漂厨するという選択を採るのがベストだったんだろうな。あと、釣道具がないとはいえ釘を曲げて釣をしようと思わなかったのだろうか?……まあ、大陸棚の向こうにはほとんど魚いないけれども。