胸の内の砂漠/文散

アイディアの種はそこら中に転がっている。

たとえば、胸の中にも。

今日は今朝から胸の内側に切り裂かれたアルバムが落ちている。

それがアイディアの種だ。

胸の内側はいつも最初は真っ白な空間に過ぎない。

しかし、そのアイディアの種から連想されるものによって徐々に色付き、

地形や建物が現れて、賑やかになっていく。

アルバムの切れ端を拾う。

鋭いナイフで切り込みを入れた後、力任せに引き裂いたようだ。

切断面は滑らかな部分とささくれた部分とがある。

今の連想は文章が書かれた順に生まれた。

つまり、「鋭いナイフの後に力任せに引き裂いたのだ」という空想が生まれたからこそ、

その拾ったアルバムの切断面の状態が決定された。

原因があって、結果がある。空想もそうやって広がっていく。

こういう破壊の仕方をする人物は、男性であるだろう。

彼はまだ若い。だからこのような衝動的な行動を取る。

彼は街を不機嫌そうに歩いているだろう。

ここで真っ白だった世界にジャンパーを羽織った男性の姿が現れ、

そして彼を囲うようにビルがにょきにょきと生えてくる。

白い地面に黒い道路が延び、その上を色とりどりの服を着た通行人が彩っていく。

彼は歩いている。

どこへ行くのかは彼自身すら知らない。

だが、僕は彼の後についていこう。

こうして物語は生まれ、そして……

うまく話が転がっていかないな。

このアイディアは破棄しよう。

すると街も人も水を浴びせかけられた砂の城のように粒子となって消えうせて、

再び胸のうちは真っ白になっていく。

そんな消失の過程を経て、最後に一つだけ残ったもの―

たとえば、ビルの隙間を行く黒猫一匹―

それを手がかりにして、また物語のアイディアを育てていく。