爪/散文

僕の指には爪がある。

そう意識すると、なんだか原始の記憶か生物としての本能か、それを一揃えの鋭利な武器のように感じ始めてしまう。

想像の中でそれは、鋭角に尖っていて、力強く引っ掻いても剥がれる心配はない。

生まれながらに備わった有効な武器だ。そんな気になる。

その武器で自分は何を引き裂きたいのだろう?

誰か他人を?

それもあるかも知れない。

両手をだだっこのように振り回して、当たるを幸いに引っ掻き回す。

そんなことを空想する。

しかし、爪はそれ以上に自分を傷付けるのではないだろうか?

痒い所も掻けない。

柔らかい部分をそっと撫でることも出来ない。

鋭く伸びた爪は、孤独で、我が身を傷付ける。

だから僕は爪をそっと仕舞う。そして、猫のように静かに歩くのだ。