支倉凍砂『狼と香辛料Ⅹ』電撃文庫/読書感想

海を渡ったのが良かったのか、凄く新鮮味があって面白かった。

物足りなく感じている部分があるとすればそれはエーブみたいな危険人物の存在が無くて、ちょっと和やかなせい。でも、ま、たまにはロレンスにもこういうゆったりまったりごほうびがあってもいいか、という感じ。

いや、ピンチはあることにはあった。それを矮小化してしまっているのは、これまでのピンチが大きすぎて感覚が麻痺しているということか、あるいはこれからのピンチの大きさを直感的に恐れているからか。

今回の注目点は、王侯貴族と教会の関係ですかね。商会と教会の関係は出てきましたが、こちらがまだでした。ってのは、僧侶は世俗を聖化することを標榜していますが、王侯はその差を厳然たる物として維持するものであるから、そもそも商人との距離が違うんですよね。

その意味で、王侯に伍する商人が目の前に出てきたというのも、今後の展開を思わせるわけです。

さて、最後に新たに得られた情報によって物語はどう動くのか?

もしかすると、そろそろ終わりを見据えることになるのかもしれません。

僕は、良い作品だからこそ良い終わり方をして欲しいと考えるのですよ。

早めに終わって、外伝を小出しにしてもらったほうが、ファンとしては評価や推薦がしやすくて居心地がいい。

とらドラ!』(ってこれは読んだことはないんですが、キャプ感想サイトでつまみ食いしている範囲ではアニメが面白そうなんですよ)みたいにアニメの終了と原作の終了を合わせてほしいという私的希望です。漫画ですが『ARIA』も同じような形で1年前に終了しました。

一方で、「涼宮ハルヒシリーズ」はアニメも原作もファンをやきもきさせています(こちらも、僕は読者では無いですが)。

良い状態で終了させるというのは難しいものです。たいていは長々と続けているうちに徐々に質を落としてしまう。直前の巻と比べれば大きく変わりはないけれど、初期と比べると随分と違ってしまう。いや、違っていて当然と考えたとすると、直前の巻と比べて変わりがないのはまたマンネリの証拠とも言える。長編シリーズの難しさがここにあります(ここで漫画界に対する『バクマン』の青い問題提起を僕は思い出すわけですが)。

逆に考えると、良い状態での完結はブランドの価値を確定することに繋がります。

そういうことを考えてよいだけの実績を積み重ねてきたと思いますけどどうでしょうかねー。

筆者プロフィールとかを散見していて支倉さんはもっと他のも書けると思いますし、タイミングを計ってもいいと思います。

もちろん、僕はファンとして完結後も外伝を欲したりするのですが、ね。

あるいは、『蟲師』の完全アニメ化を期待したりとかするみたいに。