クルーグマン著、山形浩生訳『クルーグマン教授の経済学入門』/読書感想

休学手続きに大学に行く時についでに返却したいと思ったから今日読みきった。

著者のポール・クルーグマンは去年ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞をもらった人ね。

アシモフの「ファウンデーション・シリーズ」の社会心理学ハリ・セルダンに憧れて一番近い経済学者を志した筆者がすさまじく噛み砕いて語った経済学を、「ファウンデーション・シリーズ」ではその敵役であるミュールが大好きな山形浩生が訳している。(僕はハーディン市長が割と好きだ)

まあ、一読したらわかるけどそこらの経済書みたいにレストランで出てくるディッシュっていうよりは、ボールに盛ったオートミールみたいなぐちゃぐちゃした語調で書かれてる。

去年クルーグマンが賞を貰った時の評でだいたいこういうくだけた人物だってことは聞いていたけど、それでもやっぱりびっくりした。っていうか、山形がいきいきしすぎなんだけど。

いい本だから読んでみてください。これは本当にすごい。

98年の本ってことを問題視したり、ケインズが~とかなんたら言う人がいたりするかもしれないけど、それは的外れで、まあ、学者にでもなろうと思わない限りはこの本にあることを理解すればいいと思うんですよ。僕は経済学のことは全然わかんないですけど。

だいたい本書に書かれているのは、

完全雇用状態を目指すことなど無駄」

「インフレはいいぞ」

貿易赤字は旺盛な消費の結果だから仕方なくね?つーか、政策で誘導とか規模が違いすぎて無理」

「でも、それで財政赤字という借金が増えるとインフレが必要になるから困る」

ファイナンスなんて帳簿の数字いじくってるだけの連中がそんな長いこと儲けられる時代なんてこねーよ」

みたいな感じだろうか。

っていうか、語調に反して中身は結構むずかしいよ、これ。

でもなんとなく感覚的に理解していた方向とあんまし違いはなかった。

確かに「日本は」っていうか、あらゆる経済においてインフレ期待が起きている状態ってのは雰囲気も明るいし、それを目指すインフレターゲットの設定ってのはとても重要。そして、そのコントロールのためのツールとして金融が果たす役割は大きい。大きいけど、それはあくまでも役割としての大きさであって、それ自身が市場として雇用を生み出しまくるという意味ではない。多分、この金融ってシステムは人間の欲望によって正のサイクルに陥りやすいから、自動化した方がいいと思うんだよね。ま、とにかくそういう仕組みにもっていきたいんだけど、日本の場合は人口問題がすごく大きなハードルになってる。っていうのは、日本と言う国は食料に限らずあらゆる資源について自国内での保有量に対して人口が過剰と判断できて、その識字率の高さから国民全体がそれについて問題意識を持っている。また、都市部の人口過密の問題がそれと不必要に絡まって生活実感をあたえてるとも思う。さて、ここで、適正人口への誘導という方向性を思いつくのは不自然ではなくて、そういうアイディアをエクスキューズとして子育てに投資するよりも現在の消費と将来の安全を保障すると言う方向へと消費者が収入を配分するわけだ。ってわけで、人口増は見込めず、よって内需の拡大も見込めず、生産性の向上については経済学者もその正体が分かってないから政策として実行できず、なんとなくデフレってるわけですな。

僕は、多分労働力人口が減るほどには経済の縮小が起きなくて、それによって生産性の向上の具体性が増すと思うんよね。んで、それとは別に、個人の老後の保険としての子供という共通認識とその個人の性向を助ける方向の社会保障政策から社会の労働力確保のために個人に子育てを促す方向の総合政策への転換が起きると思うの。

そういうのとは無関係に、っていうか、まあ、この本ではグローバル(笑)になってるけど、グローバル化はじわじわ進んで一体性が増していってその結果として、日経平均とかが7500と1万5000くらいを20年くらいで行ったりきたりしつつ(経済学や金融工学がちゃんと進化するなら)しだいにその波の幅と周期を小さくするような感じになるんじゃないかと思っている。

そっから先は、多分文化と技術との闘争かなぁ。多分、地力が制限要因になるから人体を効率化するか、精神が「ゆっくりしていこうね!」ってなるかのどっちかじゃねーかと思うんだよね……まあ、それはSFの範疇に入るのか。

うーん、こんな感じで明後日あたりから宇宙が誕生して滅びるまでの間についてこの本も含めた大学時代(≠研究室時代。学部時代に読んだり学んだものも無関係とは思えんのよ)に学んだ知識を詰め込んだ何かを書こうかと思う。

せっかく博士課程まで行かせていただいたので、いろんな所に報いる意味でもそこで学んだことはどこかに吐き出しとかないと誰かに悪いし。それがどういう価値を持つかは、俺が判断することじゃないと思うので。

うん、そんな感じ。

全然感想じゃないみたいだけど、そういう考えさせられるって意味で、これ、いい本だからね。読んでね。(大事なことなので2回言いました)。

どうでもいいけど山形浩生はサイトの構築に当たってクルーグマンの公式サイトを参考にしただろ、絶対。

http://web.mit.edu/krugman/www/