漆原友紀『蟲師』(10・完結)アフタヌーンKC/読書感想

西洋文明が緩やかに入り込みつつある架空の時代を舞台に、

人や獣と自然の理を繋ぐ中間の存在である「蟲」とのかかわりあいを描いた作品。

この10巻で幕を降ろすこととなりました。

久しぶりの、人には見えない道理を心霊鬼神に託す類の良い作品で、

どこか懐かしく切ない感覚を味わせてもらいました。感謝。

すべての理を理解しようと試みることは良い心がけだと思います。

たとえば科学の心とか。

しかし、人にはそれぞれに理解するのに得意な方法と苦手な方法とがあって、

とことん理詰めよりも言明しがたいえもいわれぬ感覚を介することを好む人もいると思うのです。

それは、たとえば昔話にある鬼や魔に夜の闇や水線に居を定めることの危険を仮託することに当たるでしょう。

この作品は、そういう方向の理解の方法を久々に体現した作品です。

人は、蟲を利用したり、蟲に影響されたり、ともにより大きな力の流れに従ったりします。

その不思議さを、垣間見ること、そしてそれをありのままに受け止めること、そういう現代が忘れがちな柔軟な感覚を思い出させます。

この作品、アニメが本当に良かった。

アニメの影響で単行本を買ったくらいだもんなぁ。

光と闇と緑の深さにこだわった映像美と、世界観にマッチした音楽、同じセリフを何度もリテイクしたという声優の演技、どれもすばらしかった。

必ず、眠くなったんだよね。心地よすぎて。

アニメの二期もそうですけど、

原作漫画もこれから数年後にでもいつか書いてほしいと思うんですよね。

女性だから、結婚・出産をすればまた世界の見え方も変わると思うし、

それを見てみたいと思うんですよ。

叶わないかもしれないけど、期待だけは抱いています。