横山秀夫『震度0』集英社文庫/読書感想

これは巧い警察小説。

阪神大震災の当日、N県警本部長は悪夢の途中で目を覚ます。

それは、遠く近畿で起きた地震の余波・震度1を感じた目覚めだったのだが、気象庁の速報値ではぽっかりと阪神地帯には震度表示のない「震度ゼロ」がぽっかりと広がっていた。

そして同時刻、殺人事件の被疑者を追っていた刑事課の網に警務課長の自家用車が引っかかる。

警務課長の失踪という不祥事にN県警のトップはゆれる。それぞれに抱えた情報を元に、互いに牽制し合い、打算のために情報を出し惜しみ、混乱は拡大して行くのだが、その激震はほんの一握りの関係者しか知らないのだ。

まるで、想定を超えた激震によって震度計が破壊され、震度が表示されなかった震源地のように。

情報が錯綜し、個人の思惑が事態を混迷に導く様が素晴らしい。

しかし―以下、ネタバレ

不破静江が桑江に仕立券を返してから、県警に顔を出すという展開が引っかかる。

あれほど、不破を心配しなかったと同僚たちをなじるのであれば、あの仕立券は椎野に突きつけられるべきだったと思う。椎野の首は確実に落ちる展開であり、桑江の薄気味悪さを見せるシーンが無くなってしまうが、しかし、それでも堀川の最後の説得シーンは描けるのであるから、仕立券は椎野に返されるべきだったと思った。

ってトコだけは惜しいと思いました。

それでも、阪神淡路大震災があり、かつまた、警務課長の死はほぼ確定的という状況の中、それでも自己保身が優先する人間の身勝手さがことさらに際立つ警察小説の傑作。