ER?/夢日記

■060903.sun■

バスン

砂袋を落としたような音を短く、大きくしたらこんな音になるだろうか。どこかで、銃声が鳴った。

ここは山。季節は初冬。木々は葉を落としているが、気温はさほど低くは無い。しかし、冬独特の灰色がかった空が頭上を覆っている。

僕は、目線だけの存在。カメラワークだけを追っている。

「パパぁ~」

赤いワンピースを着た小学校3年生くらいの女の子が、倒れている薄汚れたカーキ色のコートを着た中年男の右手に縋りついている。それを中年男の足の方から見下ろした光景。中年男の左胸鎖骨の真ん中辺り下方5センチほどの位置、シャツに赤いシミが広がっていた。

そして、視界の端にその中年男に向けられている銃口が見える。

銃口の動きにつられて視界が動いた。倒れた中年男の目線で、発砲した人間を見上げる。

紫色の趣味の悪いスーツだ。右手に掲げた銃を見つめてうっとりしているような目、舌なめずりするような口の形が不快だ。頭は随分後退していて、残ったわずかを金髪に染めている。ヤクザ…否、外道か。

目線が動いて、外道を右側方から捉える。

外道が言う。「俺達を裏切るからこうなるんだよ」

視点が外道の右後ろに変わり、外道の後頭部と中年男の顔が並んでフレームインする。しかし、中年男はわずかに呻いただけで何も言わない。

その時、車のエンジン音が後方から近付いてきた。外道が振り返る。

視点が引いて、道路の中央から全体像を捉えるような形になる。ここはカーブ地点で、曲がる余裕を取るために大きく膨らんだその空きスペースで事件は進行していたのだ。

倒れた男は道端に道路と体を平行にするように倒れており、中型車がその向こうに駐車されている。車の音に驚いた外道が、慌てて車の陰に身を隠す。

目線は、外道と共に車の陰に移り、エンジン音のする方向、山道の登り方向へと向かう。

ほどなくしてランドクルーザーが見えてきた。その車内に視点が移る。

まず助手席を捉える。20代後半の黒髪の女性だ。活発そうな生気に満ちた顔付きと化粧の具合に好感が持てる。細面というよりはタマゴ型の顔立ちで、軽くパーマをあてた躍動感のある髪がまた、活動的な彼女に似合っているように思われた。

その女性が「あっ!アレ何!?」と叫ぶと同時に視点が後部座席に移り、フロントガラスの向こうの光景を捉える。つまり、倒れる男、縋る少女、駐車された車だ。

視点は倒れた男のやや後ろへ。ランドクルーザーが停車し、制動するが早いかドアが開くが早いかというくらいほとんど同時に、助手席から女性が飛び降りてくる。女性は、ブルーのジャンパーにジーンズ姿だ。動きが早い。

そして運転席からも男が飛び降りてくる。30代前半の男。ダークグレイのコートの下に、随分と着古してくたびれたらしきスーツの上下を着ている。ひげは清潔にしているようだが、髪は眉にかかり、やや伸びすぎているような気がした。少し骨が目立つが顔立ちは整っていて、少し影の射した渋みのある冷静な目もとが印象的だ。

この二人、僕は以前の夢に見て知っている。彼らは医者だ。

「どうしたの!?何があったの!?」女性が駆け寄り、視点が彼女と男を見下ろすように、男の足の上方に移る。少女がわずかに身を引いて女性に場所を明け渡し、ちょうどその時に視界の右端にグレイのコートの男が片膝立ちに身をかがめる。

「銃創…?っとにかく、病院に運ばなきゃ!」女性が倒れる男の脇に肩を入れて立たせようとする。しかしそんな彼らの背後で車のドアを閉める音。そして外道の声。

「ははは!何とかできるもんならそのちっこい車で何とかするんだな!」

外道の声とともにランドクルーザーが発進して、去っていく。(が、視線は何故かそれを追わなかった。つまり、聞こえた音とその後の行動からそうであると判断されるので、こういう書き方になった)

「ちっ!」女性は舌打ちするが、すぐに切り替えたのだろう、男を立たせる作業を続行し、「とにかく、ふもとの病院まで。応急処置はちょっと狭いけど車の中でしましょう」と話す。男はそれを背後に聞きつつ、中型車の後部ドアを開く(鍵を持っていないのに開くというのは、ご都合主義だな)

視点は彼らとの距離を1m以内に保ちながら移動している。そして男はその中型車の後部に寝かせられた。女性はそのまま後部に乗り込む。

「運転は、頼みます」

後部のドアを閉める時に女性が男を振り返って言った。

ドアの閉まる音と共に、車内からリアガラスを見上げる視点になり、男がわずかに頷く姿を映す。

エンジンがスタートする。

同時に、彼女の応急処置も始まった。

(この後、揺れる車内での必死の応急処置劇!…かと思いきや…)

あっさりふもとに着いたばかりか、どうやら病院搬入のシーンすらカットされて、二人が暮らすアパートに到着。勿論、二人が暮らすと言っても、別々の部屋である。(そういう微妙に煮え切らない関係なのだ。この二人は)

女性の方が大きく肩を落として溜息をつく。

「あ~あ、せっかくの休みだってのに仕事しちゃった~」

それはたった今一つの人命を救ってきたというのに、心底残念そうな仕草である。

男の方は口数が少ない。それに対して、

「まあ、そう言うな」

たったコレだけである。進展しないはずだ。

さて、二人は屋内に入る。

男はさっさと自分の部屋に引っ込んだ。出入り口に一番近い部屋らしい。

女は、古びた木製の廊下に一人ぽつんと残される。

カメラワークがホラー映画のそれだ。

このアパート、出るのである。

女は少し身震いをして、自分の部屋に上がる階段へと廊下を進み始める。

女性を正面から捉える視点。彼女の背後に動くもの…。

振り返る彼女!それをやや右後方下から見上げる視点。

そして彼女と目線を重ねる視点へ(激しいカメラワーク!)。

しかし、何も居ない…。

彼女は歩き、階段へと辿り着いた。

階段の前は少し広めのスペースになっており、そこにソレが落ちてきた。

「ひっ!」息を呑む彼女。

それはわずかに黄味がかった乳白色の存在で、およそ人のような形であるものの決して人ではありえない。

まず、手が無い。そして髪も衣服も無い。足はあるが、指が無い。頭にはたった一つ、しかし半面を覆わんばかりに巨大な目がついている。

この妖怪、この足で人を蹴り倒し、踏み殺す事を業としている。

逃げようとする彼女!しかし、妖怪も足に特化しているだけあって速い!

あっという間に転ばされて…

□ □ □ 

はい、救急医療かと思いきや、ホラーになってしまいました。

踏み潰されそうな所で夢から覚めてしまいました。

恋人の彼は間に合ったんでしょうか…?

さて、今日はちょっとしつこいくらいカメラワークについて書いてみました。

普通は自分が登場人物の一人になる事が多く、こういう視点のみの存在になることはレアなんです。折角なので、どういう目線の動きをしているかってのを解り易く書いてみようかなぁと。

どうでしょ?伝わりました?