吉本ばなな『アムリタ』(角川文庫)

この小説は変な人ばっかり出てきて、ちょっと敬遠されてしまうかもしれない。

僕も正直“弟”がUFOを予見したシーンにはちょっと引いてしまった。

ここでネタバレなのに敢えて書くということは、コレぐらいで驚いてはいけないという意味で、これから読む人はこのシーンでパタッと読むのをやめてしまわないように、という忠告です。

幽霊とか超能力とか・・・小説でなかったら大槻教授が放っておかないんではないでしょうか?(苦笑)

何が言いたいのか理解するのが非常に難しいので読んでいる途中が非常に苦しい。

読者がバッター、作者をピッチャーとするなら、これはもうストライクゾーンの四隅の微妙に外側を、絶妙に狙って投げてきているようなもの。

内角高め、ボール。うわっ、とのけぞる読者。

内角低め、ボール。ボール攻めかよ、と驚く打者。

外角低め、ボール。ストライク投げない気か、と呆れる打者。

外角高め、ボール球・・・で、振っちゃう人は読み続ける破目になり、振らない人はここで読むのをやめてしまいます。

それで、振っちゃった人には尚も次々ボール球が投げられるわけです。

そして何とかヒットを打ってやろうと(意味を理解しようと)頑張ってカットし続けると、だんだん解ってきます。この小説で吉本ばなな氏が執拗に四隅に投げるボール球が、却って正確にストライクゾーンをふちどっている事に。(この喩えが解りにくいのは承知の上です。)

つまりそういう回りくどいけどすごい小説なのだと思います。

常識の外側から見ていたら常識が常識であることも奇跡的だった感じがする。

でもそれが当たり前。

アムリタを飲む。流れ続けるそれを・・・。

ああ、解るなあ。僕も飲むように生きているから、そしていつも喉が渇いてしまっているから。

感覚がわかるだけにこういう描き方をしたことに困惑を感じる。

粘性が高く、甘く、流れ出すような・・・蜂蜜のような濃密な小説、まさしくアムリタ。死すべき人には毒とも言える妖艶な液体・・・。

解る。でも、評価が難しいです。

これ、よっぽど悪球打ちの打者か、ストライクゾーンの概念が違う人にしか受けないのかもしれないけど、かみ締めるように読んで欲しいと思います。