世界の中心で、愛をさけぶ/小説&映画

【映画】配給:東映、監督:行定勲、脚本:坂元裕二、伊藤ちひろ

【小説】著者:片山恭一、発行:小学館

かねてより映画を見たら、小説の感想も併せて書こうと思っていたので、アップします。

*********注意*********以下、ネタばれ含みます*********注意*********

僕は映画の評判を聞いて、原作小説をかなり昔に読んだのですが、小説を読んだ直後の感想は、

「この程度のデキでは泣けない。展開にメリハリを利かせることに失敗していて、いくつかの素晴らしいアイディアを活かしきれていない。勿体ない。書店員のおススメというのも案外アテにならないな・・・」というものでした。

原作小説は展開があまりうまくないです。

祖父の話や、ラジオのリクエストの嘘話、祖父に借りた渡豪資金・・・良質のエピソードはかなり多いです。

しかし、それを上手く流しきれていないのです。

そして何より、クライマックスを作り損ねています。

空港で叫ぶところはあまりにも使い古された感があり物足りないので、クライマックスはこの作品最大のオリジナリティ溢れる場所、遺灰を風に流すシーンであるべきです。

祖父の話をマエフリにして、亜紀の遺灰を手に入れるという流れ・・・そして今、現在の恋人との結婚を前に母校で遺灰を空に撒く・・・『後悔はしないだろうか?』という少しの迷いを振り切って・・・最高のこの流れは枚数をかけてぐぐぐっと読者を引き込み、感動の涙を誘うべき場面・・・なのに!たったの数ページでさらっと終わって「あれ?さらっといっちゃった?」・・・っとに勿体ない!(品の無いたとえですが、まるでソウロ・・・以下自粛)感動しそうになるんだけど頂点までには達し得ない、不完全燃焼で終わってしまう作品でした。

もう少しで、“恋人の死を乗り越える”とはどういう意味なのか、を教えてくれる傑作になれたのに・・・。惜しい。

そして僕はこう思いました。

「映画がコレだけあたるということは、この流れの悪さが解消され、灰を捨てる場面が上手く描かれているに違いない。」

と。

映画版は果たしてその通り・・・というよりも、原作とは別物でしたね。

映画は予想通り、そして評判通り泣けました。

キーとなる交換カセットテープの導入、現在の婚約者がしっかりと描かれている点・・・その他にもエピソードや登場人物の取捨選択が適切に行われ、物語の流れが整い、素直に感情移入できるようになっています。

脚本家か監督か・・・どちらもグッジョブ!

原作の“勿体なさ”は補われ、“作品”に仕上げられています。

僕の推測ですが、脚本は「原作小説の遺灰を撒くシーンを中心に据える」ということを基軸として、逆算するようにエピソードの選定と欠点の補修を行ったのでしょう。

ただし、亜紀の遺言に従って遺灰を撒くというのは、原作にはあった朔の心の変化についての描写が薄かったと思います。

この点に関しては、原作の方が上だったかな、という印象。

物語の序盤から遺灰と解らないまでも小瓶の存在を観客に見せておくべきです。

徐々に観客に遺灰を持っているんだ、と解らせていき、最後の遺灰を流すシーンに繋げるべきです。

それと柴咲コウが演じてた女性、朔と出会うのはミラクルすぎるかも。

同郷の友人を介しても、それは難しいのでは?

あと、亜紀が無人島で倒れるシーンがダサい。びっくりするけど・・・ねぇ?

評価は良作。良作ですね・・・。

アマゾンのレビューは大変な評価の割れっぷりですが、原作小説がもっとしっかりしていたら駄作と呼ばれていたのは映画の方だったかもしれません。

小説はそれくらい勿体無かった、という印象でした。

映画は「佳作崩れの良作」、小説は「傑作崩れの凡作」の評価です。

何か、ちぐはぐ。

今回のレビューに際しては、かなり昔に原作小説を読み、今それが手元に無い関係上、記憶の糸を手繰るために下記のアドレスの記事をかなり頼りました。原作小説と映画の比較サイトです。

脚本書きを目指す人のために書かれているらしく、コメントも良心的と思いました。

「ああ、そんなんあったなぁ。」とか、記憶の呼び戻しにかなり役立ちました。ありがとうございます。

http://www.cam.hi-ho.ne.jp/la-mer/pro-aiosakebu.html