小野不由美『屍鬼』新潮文庫/読書感想

これはすごい作品。

オマージュの対象、スティーブン・キングの『呪われた町』は読んだことはないんですが、

パニックホラーとしてあまりにも精緻に日本的アレンジが施されている。

素晴らしい。

うーん、序盤が長いのが、なかなか気の短い読者にはつらいところとなりますでしょうが、その辺りも日本的ホラーの描写を構成する一要素なんですよね。排外的な閉じた社会だからこそ、内側に異物が入り込んだ時に、致命的なまでに問題を拡大してしまうことがある。そういうことだと思います。

しかし、ある種神経質と言えるほど個々の村人の描写をしておおせる小野氏の力量は凄まじいものがあります。

以下、ネタバレ。

その序盤を経て、犠牲者が続出していくわけですが、ここで最初に異変に気付く子どもたちの描写がまた、いいですね。安易に活躍させて、ジュブナイルにしないところが。

というより、あっさり犠牲にしてしまうし。

そうなんですよね、好奇心は猫をも殺す。子どもは、弱い。しかし、こうもあっさりというのも珍しいというか、容赦無い。

その容赦の無さと執拗なまでに微に入り細を穿った描写というのは、物語の終局段階にいたって大きく残酷に花開きます。とにかく、狩る側も狩られる側も人の心を残したままです。故に、その心理描写の多様さが、広範なスペクタクルとなるわけです。序盤の人物描写との対照がくっきり。

また、直接的な被害ではない、甦りを望んで子を隠し続ける母親の描写には感服。確かに、そうなるだろうけれども、そういう周辺にまで目を配る視野の広さに脱帽ですよ。

それは人間が屍鬼に反撃し始めてからも同じ。

この人間模様の精緻さこそがこの作品の素晴らしさです。

その中でも異彩を放っているのはやはり静信でしょう。

この人の闇は深い。

穏やかな闇はすべてを包み隠して、その実像を見えなくしてしまう。すべての存在と可能性を許容する。そういう深みがある。

全てはあってもなくてもよい。

有ると無いとが等しくなってしまう。

……ダメですね。うまく語れません。

未熟。