トリップ/夢日記
*20100509.sun*
古民家を再生したバスの待合所。前のロータリーではうす茶けた雪の轍が融けかけている。
雪の色はまだ深い青。夜が明ける寸前の色。
細い木枠にガラス板がはめ込まれている。からりと開いて中に入る。
中央のストーブにはまだ火が入っていない。観光案内のチラシがラックに並んでいる。
寒い。
土間と調理場が繋がっていたのだろう、たたきの待合室は森閑として冷え切っていた。
カチンという音に続いて、引き戸の車輪がきしる音がした。
振り返ると小上がりのある辺りから柱をつかむ白い指先と、怪訝そうな女性の顔があった。
目が合う。
髪を後ろに結い、細めのたまご型の顔に円い瞳が黒く良く映えている。
そして笑んだ。
「今、火を入れますから」彼女は足元に履き物を探しながら言った。
紺地の和装がよく似合う。袷の緋色がとてもよく目を惹いた。
「いえ、お構いなく。そろそろバスが来ます」僕は読めもしない距離だが遠く乗合所の時刻表を見遣った。
「そんな、ご遠慮せずに。最初のお客が来た時に火を入れる習慣ですから」彼女はいそいそとマッチを取り出して、小気味良くチッと音を立てて赤頭を擦る。
ちちりと音がして、暗がっていた円筒の胎内が紅く染まる。
まず温まるのはストーブの金の躯体で、外は青く冷め切っている。洩れ出る火明りは、せいぜい頬を染め、着物の陰影を揺らめかせるだけだ。
無言。
炎のゆらぎは人を沈黙に誘う。
だが、そこに、力強い朝日。
率直に差し込む陽の光は、人の目を惹きつける。そして、活動を促す。
「バスが来ました」僕は言って、ストーブに背を向けた。
「時間が間違っているのです」僕は言う。
「これは過去の出来事で、今ではない」入ってきたバスの前を僕は通り過ぎ、バスは僕を乗せないまま出発して僕の目の前を遮って走り去った。
そこには、空き地しかなかった。
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幻影の話。
なんかこの後もちょっとあったけど忘れた。