小松左京『日本沈没』小学館文庫/読書感想
1973年に発行されたものだが不朽の名作と言えよう。
僕が手にとったのは2006年のバージョンで、堀晃氏が良い解説を書かれ、その中で指摘しているが、これは優れたハードSFであり、ポリティカルSFである。パニックものでもある。とてつもなく濃密で激しい。
特に1973年に書かれたというのは驚嘆に値する。
プレートテクトニクス理論は、今や常識とまでなっている。
しかし、それは1960年代に急速に地殻の観測が進んだからであり、当時としては最新の、驚きと戸惑いを持って受け入れられかけている学説だったはずだ。
それをこんな風に使って、物語を構成することがすばらしい。
コンピュータの使い方もそうだが、ブレインとの連携がすごいな。
そのチームの姿がそのまま、D計画本部、というわけではないけれど、でもそれくらいすごいと思うよ。
これは色褪せないなー。
地震や火山については分からないことが盛り沢山だ。
でも、僕らの上の世代の人達はこの本を現実に反映させることはなく、阪神淡路大震災を迎えた。
あれはひどい悲しい災害だった。
現実にはD計画本部はなかった。対応は遅れに遅れた。
阪神淡路大震災で身に沁みて分かったことは、平時の備えが大事だってこと。
予知なんて待ってる場合じゃない。つか、ホント予知が下火になったのは大きいよ。
防災計画が大事だ。
安全率は広く見積もらないといけない。
盛土が地盤に成るには途方もない時間がかかる。
人は、津波を甘く見る。
いろいろ、いろいろと学ぶべきことはある。
なのに現実には、特に東京は、殆ど変わっていないのが実情だろう。
僕は、東京から大阪にかけて住みたくない。マジで。ホントマジで。
だから遠くで見ている。
でも、本当に危ないと思うんだよな。
物理的に沈むことはないけれど、経済的に沈みかねない。
この沈没って比喩ともとれるんだよな。
海外に目を向けなければならない。そして国内を変えなければならない。
その時、新しい日本の姿が見えてくると思うんだよ。
自然とは、どうしようもないものに見える。しかし、そこに目を凝らして必死に考えることで得られるものは大きい。
さまざま分析的思索は自然科学から出てきたものだ。
例外は、国政から出てきた統計とギャンブルから出てきた確率かな。しかしそれも自然科学の強力な武器となった。
自然を謙虚な心で見つめ、人間が出来ることの限界を突き詰める、そういう姿を描いた作品だと思う。
(2010.03.21記)