冲方丁『マルドゥック・スクランブル-圧縮・燃焼・排気-』ハヤカワ
残酷な社会で殻に閉じこもっていた少女は、彼女を利用しようとする欲望の炎に包まれた。
死の直前に彼女を救ったものは、社会から拒絶された技術だった。
「ドクター」と「ウフコック」は、終戦後に否定された技術の関係者として自らの社会的な有用性を証明するために特殊な事件の解決を請け負っている。
そして敵となる「オクトーバー社」もまた、戦争によって生まれた技術を社会の娯楽として提供して存続している。
そんな平穏な日常からかけ離れたテクノロジーの残滓たちの戦い。
その中で、どのようなアイデンティティを確立していくのか、そういうジュブナイル。
ただ、この作品にはとても汚れた世界の部分が描かれている。
近親相姦や男女を問わない少年愛、異種姦、人体改造、行き過ぎたフェティッシュ、その他いろいろ。
清潔な人には厳しい表現が続く。
まあ、多少の努力をしてこれを受け止めて欲しい。
一般的ではないにしても、これもまた人間の資質の一つ。
この作品の一番良いところはカジノでのギャンブルのシーンだ。
僕はギャンブルはからっきしだが(というのも、金に執着を持てないから、勝つための計算にここまでの集中ができない)、この張り詰めた描写は素晴らしいと思う。
肉体のあり方が精神を決定する感覚が作品中にあって、そこが一番共感したかな。
おもしろかった。