松岡圭祐『マジシャン 完全版』角川文庫/読書感想

そうですね。

面白いと思います。

でも、この作品の惜しいところは、マジックを利用したトリックの面白さと化かしあいのエンターテイメントだけで成り立っていて、作中でちらほら言及されている「マジックに騙されることのおもしろさとは何か」ということへの回答が弱い、ということだろうと思う。

多分、「技量とそのための努力と意志を賞賛する」というところなのだろうけれど、それは沙希のステージの中で示されるべきものが一度はマスコミへの売名的位置づけが強かった点で、二度目は殺人未遂という点で弱まっている、と思う。

何より、真犯人もなぁ。

詐欺以外の殺人が弱いんだよな。

殺すんならスケープゴートのアリバイくらい確認しておけと。

そっちにマジック使う……ってのは、まあ、他のミステリでさんざんっぱらやってるとはいえ、うーん。

個人的には、舛城刑事が沙希を呼び捨てにするのがすごい気になる。ちゃん付けして怒られるのなら分かるが、その辺の呼び名というか、人間的な心の機微への配慮というのが松岡氏の作品には欠けている気がする。

恋愛要素とか親子愛、友情、その他ね。

人間味に欠けるんだよな。作品が理屈っぽい。情も理に整えられてしまっていて平板。

そこが退屈かな。