横山秀夫『陰の季節』文集文庫/読書感想

警察小説、というジャンルの多くは実質的には刑事小説だった、と僕は思う。

刑事とその捜査対象とで作られる世界が描かれていた。

横山秀夫は、その警察小説を警察の内側だけの世界を描き、その内なる闘争を描いたのが新しい。

そこに描かれる正義は一般に通用するものではなく、あくまでも警察内部だけの価値観だけで語られるものだ。組織というフィルタによって屈折した正義がそこにはある。

どんな組織にも、組織の内側の論理が存在してしまう。

それは、友人関係にだって、恋愛関係にだって、存在してしまうことがある。

そういう理想が建前によって屈折し、本音を抑圧する情景、それを総体として正義を体現するためにひたすら強固な組織となった警察機構の中で描く。

そこに横山秀夫の面白さがある。

しかし、これは先に読了した『動機』で触れたのだけれど、横山秀夫の小説にはやはり「ふっ」と力を抜くところがない。

多少は見せる光明にしても、狭く暗い官舎の廊下から玄関口に差し込む光を見るようで、組織の囲みから抜けきっていない。

そこが苦しい。

多くの人は、その外に広く青い空が広がっているのを夢見る―夢見せてほしいのだ、小説でくらいは。

その辺のサービス精神が足りないのは、もしかしたら氏自身がそういう経験に乏しいのかもしれない。

あと、もう一歩、踏み出すことが出来れば、娯楽小説として開放されると思う。

今でも十分で、完成された面白さはあるのだけれど。