野尻抱介『沈黙のフライバイ』ハヤカワSF/読書感想
通勤ルートにある本屋がほんの数日きまぐれのように”ゼロ年代”フェアをやってて、まあ、いろいろな作家が、SFが、平台の半分を占めるまでに平積みされているという、珍しい事態で、ニコニコでボカロ押してたりいろいろ縁っていうのかなんというか、野尻さんを選びました。
非常にソフトな語り口で、分かりやすいし、面白い。
特にこの短編集は実現しそうなことが並んでいて、好奇心をそそられる。
「沈黙のフライバイ」はシックなつくり。
「重さ1グラム、切手サイズの探査機を百万個作ってαケンタウリに送ろう」
小にして大を兼ねる作戦で恒星間探査計画を模索する科学者たちに、SETI=地球外知的生命体探査プロジェクトが驚くべき電気信号を伝える。
その内容とは……。
21世紀らしからぬ使い古されたオチのつけ方がにやりとさせられる。
「轍の先にあるもの」
これは天文ファンの作家として、夢を描いたものかもしれない。
けど、僕としては「ハヤブサ」の成果を思い出すんだな。
この短編中に登場する小惑星・エロスにはまりこむ作家だが、ありのままの姿が見えそうで見えないからこそ天文学は興奮するものなのだ。
「片道切符」
火星はずいぶんと近くなったのだけれど、まだまだ行くには遠すぎる。
だから火星人が攻めてくる映画なんて撮って、向こうから来るのを待ってるんだ……違うか。
これはそんな現状に我慢ができなくなった連中の話。
なぜかアメリカンテイスト。
二つ続けて閉鎖生態系が出てくるんだけれども、こちらはパーソナルな閉鎖生態系の話。
うーん、こんな未来スーツ、ほしいけど使うのは抵抗あるかな。
着想を延長して火星まで行く、同じアプローチなのに過程の違いで「片道切符」と「ゆりかごから墓場まで」はまったく違うお話になっている。
僕はこっちが好き。
「大風呂敷と蜘蛛の糸」
伸ばした糸で高空を飛ぶ蜘蛛の存在は有名――ではないか。
しかし、その存在を知ったとき、人は流体力学の玄妙さに打たれるはずだ。
これは、一次元の糸を二次元の膜へと展開し、それによって人間を宇宙へ運ぼうという話。
飛躍した発想に現実的な肉付けを行ってそれが実現する。
その過程こそが工学の楽しさ。
さわやかで楽しい作品だ。短編映像化しないかな。
全体に初心者にも入りやすい……と言いたいわかりやすいできあがりです。
すっごいオススメ。
さて、振り返り振り返り感想を書いたきっかけになったのは、この記事。
「最も地球に似た太陽系外惑星」(National Geographic News, 2009.04.22)
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=59520258&expand
たったの20.5光年のハビタブル・ゾーン!
わくわくするね!あと100年は生きていたくなるニュース。
……というわけ。
(20090423記)