横山秀夫『動機』文集文庫/読書感想
氏にとっては『陰の季節』に続く二作目の短編集ということになる。
既に更に後年の作品を読んでいるので出来において「これは!」という驚きはないけれども、氏の「組織の脇役を主役として描く」という作風はしっかり表れている。
警察だけでなく、警察回りの新聞記者や、判事など、作者の経験を活かした描写が面白い。
しかし、ふと思ったのは横山氏には少し「笑い」が足りないかな、ということ。
ふっと力を抜く瞬間が最後にしかない。
すごく物語の造りは上手くてしっかり感動させてくれるけれども、それは「悲哀」あるいは「悲哀から開放された安堵」でしかない。
悲哀や憤怒などの暗い感情とほのかな人情の温かみだけでなく、勇義や歓喜などを盛り込んでもっと感情を正負に揺さぶると、もっとすごいのかもしれません。
今の作風でも十二分に面白いのですけれど、その辺が加わるとさらに面白いかな、と思いました。
(『クライマーズ・ハイ』のプロポーズのくだりとか、もっとああいうのをって感じですかね?)