舞城王太郎『阿修羅ガール』新潮社/読書感想

出だしはすごく良いんだけど……。

うーん……。

これは確かに読者を選ぶ。っていうか、読者が読むか読まないか選べ。

俺にはよくわからん。

2003年の作品ということで、まあ、凶悪事件が増えてきた後の少年少女の姿を描いている。

あと、ネットの存在が大きな背景になっている。

ここでのネットはPCからのネットであって、今のモバイルサイトではないのだけど……。

ま、平たく言えばこの作品に出てくる≪天の声≫ってやつは2ちゃんねるあるいはそれに類似する匿名掲示板群であると見て差し支えないわけです。

中学生を厨房と読んだりね、2ちゃんねるの知識があると、まあ、理解し易いんですが……。

それでも、これはちょっと全体のまとまりが弱い。

わざとくさい感じもするから自信ないけど。

主人公の女の子は暴力的なまでに強い。

強いけれども、少し、一般的な意味での妄想癖がある。

自分よりも恋愛事情に精通した女性を自分の中に想像して、その女性のアドバイスを受けて気になる彼への対応を決定したりする。

あまりに未消化だからすごいネタバレしないと感想かけないんだけど……。

人肌恋しくて一夜のお相手をしたものの、その行為が自己嫌悪につながって、主人公の愛子は佐野君を蹴っ飛ばしてラブホを逃げだしてきてしまう。

翌日、女友達に呼び出されて女子トイレに行き、しめられると早合点して敵とするに一番厄介な人物をニーキック連打で血塗れにするが、実は呼び出しの理由は佐野が行方不明になったので前夜の話を聞きたいだけだったのだ。

で、気になる金田君はその付き合いの良さから行方不明の佐野を探しているのだが、主人公はそんなことよりも、佐野と最後に会った自分という位置付けを利用して金田君に近付きセックスしたいと考えている。

ところが、話をしに行った公園で金田君はそんな雰囲気になかなかならないし、いきなり現れた数ヶ月前に三つ子をぐるぐる魔人と名乗る犯人に殺された夫婦は人目もはばからず泣きながらセックスを始めるしで、結局勝負下着は日の目を見ずに終わる。

その夜、愛子の兄はぐるぐる魔人を捕まえる為に無差別に中学生を襲うグループを止めに行った友人を助けに、家に愛子一人を残して出かけてしまう。んで、その襲うグループと止めようとするグループでアルマゲドンが興ってしまうわけだ。暴力的に。

心細さを口実に、愛子は金田に電話を掛けて、家に来てもらうことにするのだが、玄関先に現れたのは――

ってのが、第1部なんだけど、第2部が、まあ、平たく言えば、三途の川までの話と、恋愛指南の女性キャラに仮託したなんだかひどいグロい悪夢を見る話で、そこからいきなりぐるぐる魔人視点の第3部へと突入してしまい、途中から出てきた桜月があれよあれよと……

……こういう悪夢は俺も見るけど、でも、これって小説だし、そういう自由さってどうなの?

うーむ。

少なくとも、あれくらい影響力の大きい匿名掲示板を≪天の声≫としたのは、ちょっと疑問符。

普通は、匿名掲示板と言われれば人は『電車男』で知名度を一気に上げた2ちゃんねるを意識する。

阿修羅ガールってことで、天部を意識したのだろうけれど、そういう宗教的なイメージを持つとちょっと実在の2ちゃんねるとはかけ離れてしまうかも。アレは集団的な実行力を暴力方向に発揮する―宗教的な精神性を有しているのとは、ちょっと違うと僕は思っている。「予告.in」の騒動の以前から、基本は、暴力行為には「通報しますた」と冷笑的であったようだ。(余談だが、「予告.in」の失敗は正直がっかりだな。エンジニアが発想のおもしろみに留まりがちで、その運用段階に想像力の限界を持つことを示す例になってしまったと思う。)

つまり、読者側の読解前の条件として、ここに書かれている≪天の声≫が2ちゃんねるではなく―例えば2008年の知識でいえば秋葉原連続殺傷事件の犯人が利用していたような、小規模な、より濃い掲示板であると理解すると、リアリティは増す。ていうより、モバイルサイトが実際にそういう場所になる素地がある。

そういう先見性があるといえば、あるけれど、これはあまりにも展開にまとまりがなさすぎる。

最初の着想と、着地点のみがあって、その2点をつなぎ損ねた……っていうか、つなぐ気はなかったのかも知れないけど、どうなんだよ実際のところは?俺にはわかんねーっつーの、みたいな内容だ。

解決されていない問題も残っているし。

素材としてもったいない部分がすごく多いと思うけど、作者がこれでいいってんだったらいいんでしょう。

当初書こうと思っていたものから、思いもよらない規模へと膨張する、その寸前で膨張し損ねたような、そういう惜しさがあると思うのだけど。

評価したいけど、できないような、もっとしっかり書き込まれていれば――と思わざるを得ない作品。

ていうか、まあ、内容的に作者の精神状態をまずは心配しなくてはいけないかもしれないのだけど。

大丈夫なんだろうか……?

こういう精神を飼うのって大変だと思うんだけど、なんていうか、どういう言い方でもいいけど、いつかこの作者はすごいもんをつくるか、つくんないかだと思うね。作って欲しいけど。いや、どうでもいいです。

ていうか、もはや現代はこの程度のカオスですら生温いのかもしれないし。