金谷治 訳注『論語』岩波文庫/読書感想

読み終わりました。

儒教的○○」って言われてもよくわからないので、『論語』から入ってみた。

時代は周の支配力が弱まっている春秋時代孔子は魯の国で大臣を務めていたが、代替わりによって遠ざけられたっぽいことが伺える。ここで政変に応じようとしたりしてさらに遠ざけられたらしく、諸国を弟子たちと巡遊して用いられず、結局帰国して弟子の育成に専念したらしい。

身長が180以上あり、73歳まで生きたというから丈夫な人だったのだろう。

肝心の中身はというと、なかなか面白い。

論語』は孔子と門人たちの語録であり、「徳」によって政治を行うことを善しとしている。

ここでいう当時の政治というのは、今の政治の概念からはかなり遠い。

というのは、孔子がこの『論語』で「楽」や「喪」について言及することが多いように、政府行事を通じて国民に日常の礼儀について範を示すことに中心があると思われるからです。

そして孔子自身はその起源を周初の周公旦に求めている。つまり、周初以前の倫理によった素朴な政治を志向する考えに儒教は端を発しているのでしょう。

「仁」とは、「節度ある愛」かな、と思った。

その節度というのは、「礼」によって体現されるのだけれど、それはいわゆる作法のことだろう。

作法を守ることで人間関係が円滑になるし、それで愛も実現できるという考え方。

「仁」の親子関係や主従関係における下から上への実現が「孝」だろう。

また、人間関係においては「信」について語ることが多い。

あるいは「忠」とか。「忠」は裏表のないこと。それを通じて信じあうことが大切で、「信」がなければ民はついてこない、みたいなことも言っている。

貧乏を嘆くことを戒める一方、利殖については富ませることは悪いと言わない。弟子の一人にどこからともなく稼いでくるみたいな評をしているところがあるし。一方で、租税の徴収は士にふさわしくないと見られていたりする。

しかし、富みすぎて民を苦しめたりすることは許さない。その辺のバランス感覚が「中庸」ってやつなのだと思う。「庸」は「常」に通じるらしいから、つまりは「常に中る方法」だろう。

「智」について、知らないことは率直に学ぶべきだと言っていて、質問に来た人間は悪評ある村の出身者でも受け入れる姿勢を見せている。また、孔子自身、憧れの周公旦を祀る廟に入ったときは、間違うのを恐れたのか恥じることなくあれはこれはと質問しまくって、周囲に「あいつ礼を知ってるって言ってたのに教えて君だったよ」とか馬鹿にされている。

「義」についてはあまり多く語られていない気がする。

「義を見てせざるは勇なきなり」に見えるように、基本的には「やるべき意義」というところだろう。

つまりこれらの実践ということだから、あまり敢えて触れられないのだろう。

どちらかというと、それができるかできないかに関わる「勇」であるかそうでないかについて書かれていることが多かったと思う。

とまあ、こんな具合に『論語』自体は人間性に関する話がすごく多い、よって人間味を感じさせるエピソードがいろいろとあって、それが読み物として面白いところがあると思います。

「鶏を割くに牛刀を以ってす」では、弟子がマジレスして「だって前に先生はこうおっしゃった」って答えたら、「いや、その通り。今のは冗談だからね」と弁解したり。

解かれている考え方は現在に通じるものがあるし、漢字の意味が現在とはいくらか違う部分があったりするけれど、古典の授業で一冊通して読ませて面白いと思ったひとつを発表させるとかそういう使い方ができるんではないかと思った。

孔子の教え自体は戦国の競争時代にはあっていなかったけれど、それは人間の基本的な道徳の問題として生き残り、漢代の太平の世で法家の管理機能部分を引き継いで大きく花開いたんだろう。

道教との関わりについては、おそらく、「義を見てせざるは勇なきなり」の前の句「其の鬼にあらずしてこれを祭るはへつらいなり」とあるように、儒教が祖霊信仰以外を採用しなかった部分と儒教としての成立以前の孔子からの思想的流れとが融合したものだろうなぁ。そんで、儒教の一般化とともに儒教の思考が漏れ出して五行陰陽思想とかになってくんだと思う。

同じ祖霊信仰を主として、横の関係性である「和」を重視した日本との比較としても面白い。

儒教の縦の関係性がこの後強まってくるのだろうけれど、日本もそれを輸入する形になった。

キリスト教は「隣人愛」としてあくまでもその隣接性が問題になる。これは、排撃される側としての密集性の思考だと思う。そして、神の代行としての教会と教会の認定する支配者としての王と、という縦の関係性の論理。これは東洋と西洋の大きな違いだよなぁ。

始めから違いがあって硬直化しているヒンズー教とも異なる。

その倫理観が下克上をどうやって論理化するかというのが、文化の進展に影響していそう。

え~……長くなるのでここで唐突に終わります。

(追記)

うっかり忘れていましたが、この本は訳注も良いと思います。

もちろん僕は専門家ではないですが、他の古注や新注のほか、諸説を紹介しつつ、時に自説をとっているらしいところがあって、挑戦的であり丁寧でもあります。