角田光代『空中庭園』文集文庫/読書感想

対岸の彼女』で直木賞を受賞した氏の、その前の作品。

婦人公論文芸書を受賞している……いろんな賞があるんだな……。

現代の家族劇を書くとすると、郊外というのは絶対に無視できない。

そこには都市から溢れた矛盾がありのままに転がっているからだ。

田舎から都市や郊外を見る視点、都市から田舎を見る視点、それらには異文化との接触がある。

しかし、郊外にはおかしな閉鎖性があって、奇妙な息苦しさがある。

そんな矛盾に溢れた家族のお話。

筆致、話の運びは素直に上手。

ただ、ここにはありのままの姿しかなくて、フィクションらしいドラマがない。

カタルシス、それが作品の印象を強くするものだが、矛盾は矛盾のままにリアルに些細な解決の端緒のみが示され、物語は終了する。

どうして暴力的にでも壊してしまわないのだろう?

それは登場人物のみんなが優しすぎるからだ。

過ぎた優しさはおためごかしに他人の名を借りて自分に向けられ、そのまま残酷さへと変じる。

そんなことを思った。