支倉凍砂『狼と香辛料 対立の町』(上・下)/読書感想
『狼と香辛料Ⅷ』と『狼と香辛料Ⅸ』がそれぞれ上巻・下巻なわけですが、実はこの二巻で描かれる一連の事件は外伝であった『Ⅶ』を隔てて『Ⅵ』と非常に強いつながりがあります。
敢えて言えばⅥ・Ⅷ・Ⅸで上・中・下と三巻組みを構成していると言えましょう。
さて、以前の感想でちょっとネタ切れ感があると書きましたが、この「対立の町」でその印象はとりあえず拭い去れたかな、と思いました。
面白かった。こういうライトノベルなら図書館に置いても十分に教育的な意味を見出しうるんですけどね。俺が司書ならばここから中世社会史やら神話学やら金融・会計へと誘導するところだぜ。
さて、行商人として商えるレベルを超えて、多分に駆け引きの要素が増す町商人との絡みが増えたからです。
とにかくエーブの魅力がバシバシ出てるエピソードで、エーブに傾いた人も多いのではないかと思いました。
コルという子供の登場で、ホロとロレンスの関係がますます所帯じみてきていて、悪い意味は無いのですが安定期に入ってしまっているんですよね。
そこに年上の経験豊かな(商人的意味で)女性が現れるというのは、やっぱり刺激的ですよね。
ただ、仮定として、ここで倍近い年上の男のシブイ商人が出てきていたとしても、やはりその娘辺りとごちゃごちゃして楽しいと思うんですよね。
ロレンスは有望なだけに引っ張り挙げようとする男商人と、それに乗じてアプローチしてくる娘―しかも父の仕事を見て育っているので商売上の聡さも持ち合わせている―とかなると、ホロのライバルとして面白いと思うんです。男は男の背後の女の存在になかなか気付けない。一方、娘は敏く察していさかう。そういう構図。
エーブでは、エーブが積極的なアプローチをかけてこない、というよりもかけられないのでホロとロレンスの関係に大きな揺れはないのですが、そういうタイプならば危なく見えてくるのでは無いか、と思います。
平たく言えば、ホロがビアンカでその娘がフローラみたいな感じですよ。
次はイギリスがモデルの国に行くみたいです。金の羊毛はアルゴー号ですけどね。
確かイギリスだったと思うんですよ、金のなんかがあってそれが教会の権威に繋がっている教会があるのが。なんだっけか……中世の伝説に詳しく無いからなぁ……。
とにかく、次巻も楽しみにしています。