上橋菜穂子『蒼路の旅人』/読書感想

前作『神の守り人』でテーマの大きさのあまり消化不良のような印象が残った所から一転、

今作はチャグムがタルシュ帝国から伸びる陰謀の手に絡め取られ、それまでの常識を覆され続ける苦境を経験します。

さあ、チャグムの運命はどうなるのでしょうか!?

とにかく、ここまでのシリーズ中で最も重苦しい忍耐の時、そして、最も熱い、燃える展開が待っています。

これは、次が楽しみだが手近なところで借りられる場所が無いんだぜ。

生殺しです。

ところで、今回偕成社の軽装版を読んだわけですが、これまででもっとも広域の地図が掲載されていて、新ヨゴ皇国からタルシュ帝国が一つの図版に収まっていて位置関係が丸分かりです。

(公式ページに公開されてますね⇒KAISEI WEB『守り人&旅人の世界』

一番びっくりしたのはサンガル王国の姿。

これは王国として成り立つのか、と。

一番の問題は、王宮がある半島の直近であるタルシュ諸島までの間には島の無い海が横たわり、作中の時代の航海技術でもってして順風で5日の航程が掛かるということ。国土の主体であるはずのラス諸島まではもっと時間が掛かる。挿絵から推測して、横帆船だから平均6ノットの速力が出るとして、浅瀬が見えない夜間の航海を避けて一日に12時間進むとして5日だから、600キロはあるかな。東シナ海くらいか。これは島守の反乱を実際に平定するには厳しい距離と思う。有事には補給艦を伴っていかなきゃいけないし、往復10日の情報格差は大きい。

そして、ラス諸島の島々が思っていたよりも小さい。島守がいる六つの島はせめてそれぞれが九州くらいのサイズは欲しいところ。それらがフィリピンみたいに寄り添っている姿を僕は想像していた。

それから、サガン諸島と南の大陸との距離が思ったよりも近い。山脈の先に連なる弧状列島から辿ればかなり簡単に南の大陸からも船団を送れる。大きな島が少ないので補給が難しいのがネックだけど、それは北の大陸から見てラス諸島にあまり大きな島が無いという意味でほぼ同じ条件だもの。沖縄くらいのサイズの島がいくつかあれば補給面では十分。

つーか、全体に国々が大きくないんですよね。「大陸」っていう表現でついつい想像をたくましくしていましたが。

新ヨゴ国も都から青霧山脈までそれほど広くないし。鉄の使用と騎士的精神の発露の具合からして中世には入っているので、3万の兵を動員できるということは100万石クラスですからなぁ。

「大陸」って表現でつい中国大陸とか思い浮かべていましたが、もっと小さく日本くらいのサイズで考えてるべきかも。感覚的には関東平野が新ヨゴ皇国とすると、西日本が全部小さな島のあつまりになっていて、韓国から攻められるような感じか。北陸がロタ王国、東北がカンバル王国、その後ろはよくわからない蝦夷地。

新ヨゴ皇国を建国するトルガル帝は、ヨットを大きくした船で沖縄から航海する感じとか?