村上春樹『ノルウェイの森』講談社文庫/読書感想

Isn't it good, "Norwegian woods"?

いいね、この小説。

描写が細やかで、情報が多い。著者は書かなくてはいけないと思っていて、しかし、それがどういう形になるべきか分からない。だから思い浮かぶことをそのまま書いている。その結果が、描写の繊細さだと思う。

著者がまだ考えている感じがする。

一章の終わりに、直子がワタナベを愛してさえいなかった、と語られる。読者は「うん…でも、それってどうしてそう思うの?」って考えながら読む。微細な描写がその疑問を解消する助けとなる。そして物語の結末は……結論は読者が判断してよいと思う。

僕は直子は直子なりにワタナベを愛していたと思う。

でも、それは必要としていたと言い換えることもできるものだったとも思う。

それはワタナベが「愛してさえいない」と表現することも可能なものであったし、直子自身もその愛情の形に疑問をかんじていたのではないか?と思った。

こうして書くと冗談みたいにいい加減な解釈だけど、本気です。

僕は愛の定義はそれを求め二者の間で決められるものだと思う。性愛だとか金銭の授受だとか、何で定義したっていい。家族愛だって、「それが家族でしょ?」なんて言葉で定義が確認される。それが本当に考えた(或いは直感した)通りに機能するとは限らないけど。

セックスとかマスターベーションとかフェラチオとか出てくるけど、僕にはよくわからない。経験ないし。

でも、当たり前に描写されているということはそれは重要じゃないってことを示しているように思える。

……いや、強がりじゃなくて。

十年前の高校生の頃には、すごく恥ずかしがったと思うけどね。もっと恥ずかしい本を持っているくせにね。

まあ、こういう小説に寛容になったのは、年をとったということなのかな。

性欲処理を当たり前のものとしてきた直子にとって、当たり前でないほど感じてしまったことがそれまでの自己に疑念を抱かせ、そして、それまで当たり前であったものを継続しようとした草原での出来事は良くない結果になったのではないかと思った。