『ハリー・ポッターと死の秘宝』静山社/読書感想

10年前に手に取ったときには思わなかったくらいにシビアな物語として完結しました。

死亡したキャラクタの数を覚えていないくらいです。

一巻からずっと隠れていた伏線が現れたり、一巻と比べて見違える成長を遂げた登場人物がいたり、全巻を読み終わってみて感慨のようなものがあります。

うーん。

途中から――五巻くらいからかな、登場人物の精神年齢の成長に読者としての僕が戸惑いを感じるようになったんですよね。というか、僕がハリーたちの心境が分からなくなった、という表現が正しい。

それは、ちょうどハリーが高校生くらいの時期を描いた巻なのだけれど、僕には色恋が複雑に絡み合ったりだとか、大人を意識したりするということが高校時代になく、なんだか周りのコイバナについていけなかった高校時代を思い出した。

それにしては、ハリーは高慢なところがなかなか直らなくて、成長しないなぁ、とか思ったり――

しかし、最後は決めてくれましたけどね。

一番印象に残ったのは――いろいろ書くので名前をだしませんけど――自分でも意外な人物ですね。

あの人物の裏切りには正直自分でも意外なほどショックを受けて、そして七巻での真相にほっとしたところからも判断できるんだけど、僕はどちらかというとハリーよりももっと彼の人生に共感するところが大きかった。

過大なプライドを持つのに事実、日陰者で、陰険で、率直さに欠け、陰謀を巡らすような報われない人間。

それでも――なんとなく、作者に愛されていたのは彼ではないかな、と思った。

作者は第七巻に関してインタビューで作中の重要人物のうち「2人が死に、1人が死から免れるだろう」と語りました。それが誰なのかは、読めば分かるのですが、読者が想像していたのとはまったくことなる人物でしょう。それは、読者にとっての重要人物という概念がハリーというフィルタを通してのものであるのに対し、作者の視点がそれを超えた場所にあるからだったのです。

個人的にひとつ、過ぎた要求が許されるならば、死の秘宝のひとつが賢者の石と絡んでいたら、すっかり一巻から七巻までが環になったのに、と思いました。

たった、それだけです。

始まりは最高品質の子供のためのファンタジーとして離陸し、お終いは最高品質の大人のためのファンタジーとして着陸したこの希代の名作に、拍手。