上橋菜穂子『虚空の旅人』偕成社/読書感想

これはハードカバーにて再読。

図書館から借りてきてもらいました。

何かしら理由付けして「守り人」ってつけてもよさそうな気もするんですが、心機一転を狙ったのでしょう。

新ヨゴ皇国の南方にあるサンガル王国は南の国。

そこでは王子に次男が誕生すると、王から王子へと王位が継承されることが定められています。

新しい王の即位の宴にチャグム皇子は帝の代理として出席するため、長旅を経てこの同盟国を訪れます。

その華やかな宴の裏では、サンガル王国の南方の島々を巡った陰謀がうごめいていて――

精霊の守り人』の事件から3年が経ち、14歳となったチャグム皇子が主役です。

まだまだ子供っぽい部分はありますが、宮廷の人間として成長した姿を披露してくれます。

彼の指導役であるシュガも彼の補佐として同道しており、彼もまたトロガイ師の下で身に着けた呪術師としての技量を見せます。

南方の、島々で所領を構成するこの国で、海と海でのナユグの姿とが夜の闇と星の光の中で印象的に描かれます。

そして、流れる風と潮の冷たくも流麗な美に対し、醜く血なまぐさい政争劇が印象的です。

この巻では初めて悪意を持って人を傷つける呪術が行われますし、これまでのシリーズとは一線を画するシビアさが(これまでも普通の自動向けファンタジーでは滅多にないくらいシビアなのですが)あります。

そして、このシビアさがあるからこそ、タイトルに「守り人」が外れているのです。

『虚空の旅人』

ラストシーンとこのタイトルを合わせると、冷たい風が吹きすさぶ空を高く強く早く隼が飛ぶことを祈らざるを得ません。