上橋菜穂子『闇の守り人』新潮文庫/読書感想

こちらも4年ほどの月日を経ての再読。

精霊の守り人』の続編です。

さて、女用心棒の短槍使いバルサは自身の因縁について自分の心の決着をつけるため、生まれた国であるカンバルを訪れます。

バルサの父に兄王を毒殺させ、物取りの犯行に見せかけて殺した先王は既に亡く、ただ、バルサは育ての父であるジグロを知る者たち―ジグロがバルサを守って失踪し、追っ手をすべて殺して退けたことによって、さまざまな想いを味わった人たち―に真相を告げる旅になると考えていました。

しかし、先王の悪事の残滓は実はじわじわとカンバルを蝕んでいて――

というあらすじ。

この巻ではバルサ、そしてジグロに強くスポットライトが当てられています。

タイトルは『闇の守り人』ですが、実によく、闇に光を当てているのです。

押し殺した感情の向かう先にあるもの、その終着点を見る旅です。

それにしてもつくづくこの上橋という作家は戦闘状景の描写に力があって、驚かされます。

短槍の戦いに詳しくないのですが、女性としては稀有といっていいと思いますし、男性作家でもなかなかこうは描きません。

僕は、上橋さんは運動神経が良いのではないかと想像しています。

バルサが集中した状態の描写はまるっきりスポーツで言う「ゾーン」そのものですし、そういう感覚については実際に自身で経験してみないとなかなか興味を得られないものです。

きっと体を動かすことが好きで、その時点の経験と体力とが最大限に活かされる精神状態に至ったことがあるのでしょう。

戦闘描写にも注目です。

それから、この巻に出てくる少年カッサも、ごく短い間ですが大きく成長して面白いです。

彼は15歳ということで、12歳だったチャグムと比較して、この年齢の違いを書き分ける上手さにも注目して欲しいです。

最後に、この巻の解説は『精霊の守り人』のアニメを監督した方が書いています。

とても尋常じゃない思い入れようでファンとしてはうれしいかぎりです。

是非、この『闇の守り人』も彼の元でアニメ化して欲しいと思います。

戦闘シーンが闇の中なのでめっちゃ難しいから、どう表現するかたのしみなんですよね。

薄暗がりに灰色の姿が動き、槍と槍が火花を散らして、ちかっちかっと瞬くように姿が見えるとか、美しそうです。ほんと、NHKのえらいひと、お願いします。