横山秀夫『クライマーズ・ハイ』文集文庫/読書感想

この小説を手に取ったなら、せめて読み終わりそうな日には晴れの日を選び、空が見える窓際やベランダで、日が沈んでしまわないように一気に読んでほしい。

僕が窓際で読み終わった時そこには作中と同じ抜けるような晴天があった。

その開放感を味わってほしい。

本書は航空史上の大惨事、御巣鷹山日航ジャンボ機墜落事件を、地元新聞社の記者の目から描く傑作である。

後藤正治氏が書いた解説が素晴らしいので、解説として語ることはここには無いように思う。

この作品には、上毛新聞の記者であった著者・横山秀夫の知識と経験がそっくり放り込まれていて、すさまじい臨場感がある。

話の展開も完璧。

男に生まれたら、こんな風に仕事をしてみたいと思わずにはいられない。

熱く苦しい鉄火場の下に、温かく軟らかい水脈が流れる仕事場。

不器用なんだよなぁ、主人公が。

そして失敗と成功とを繰り返す。

それでもそれで満足するってことがいかに難しいか。

完膚なきまでに泣いた。

そして一回読み終わるとどの部分を読み返しても涙が出そうになる。ていうか、出る。

むしろ今思い出しても涙が出る。

たぶん、今後何度も読む。そして何度も泣く。

それくらい傑作。

この圧倒的内容を映画に出来るなんて信じられない。

さて、アマゾンレビューを見たら、「主人公に感情移入できないor登場人物が俗物」って意見と「御巣鷹山に惹かれて買ったのに全然関係ない」って意見が多かった。

前者、うん、男くさいからね、仕方ない。でも、現実ってこんなもんだよね。っていうか、これでもかなり理想化されてるよね。

後者、たぶん、横山秀夫自身が御巣鷹山を語れる位置にいないと感じているからだと思う。横山さんが悠木のポジションで、佐山や神沢が書くべきそういう作品は絶対に書けない。というか、そういう心境があったからこそ唐突だとしても望月彩子が現れて報道って何?と問いかけるのだと思う。下りてしまった横山さん的には、マスコミにクライマーズ・ハイになってほしいのだと思った。でも、それが正しいかどうかは、わからないんだよなぁ。でも、それでも登るんだ、って気分が、登り続けるってことなのだとも思う。