泉基樹『精神科医がうつ病になった』廣済堂文庫/読書感想

現役精神科医が、医者としての仕事の中でうつ病を発病して休職し、復職するまでに回復する、その過程を描いた作品。

うつ病のかかり始め「うつ状態」にある人、またはうつ病からまさに回復しようとしている人、また、うつ病あるいはうつ病っぽい人が周囲にいる人々にはぜひ読んでいただきたい一冊。

非常に平易な文章で、筆者が医者になった理由から、治療にのめり込む理由も明らかにされていて、そこからうつ病の負の連鎖へと陥っていく姿が理解しやすい。

異物を排除するように胃が痛くなる、働かなきゃいけないと思っているのに頭が動かない、文字が頭に入ってこない、食べ物に味がなくなる、景色に色がなくなって視野が狭くなる、他人の声がざわざわして自分を非難しているように感じる、しかもそれを思い出す、体が重い、なにもかも楽しくなくなる、楽しむ資格がないと思うようになる、それらの結果として死んだほうがマシと思ってしまう、そういう症状。

これほど献身的に、しかも病気の特徴を理解して支えてくれる事例というのは珍しい。

職場がうつ病そのものを扱う職場で、上司も同僚も症状を理解しており、さらに、恋人がいて、しかも恋人も症状をちゃんと理解できていて、加えて、自身も精神科医であるという超絶好の条件で、発病から1年半で勤務が不可能になり、そこから復職までさらに半年かかる――うつ病とはそういうやっかいな病気なのです。

ぜんぜん風邪どころの話じゃないよ。

だれもが陥るへこんだ状態=うつ状態なら風邪だけど、そこからスパイラルに入ったうつ病は先生が書いている通り、肺炎と呼ぶべきもの。

さて、ここに描かれているうつ病は、「働きすぎ」によるうつ病であって、おそらく中高年がかかる更年期障害やらが関係したうつ病とは原因が別物なのかもしれない、というのは念頭にあってもいいかも。うつ病にもいろんな入り口があります。

しかし、表出する病状は同じで、同じ薬が効くから病院としては同じうつ病として取り扱うのだと思います。

うつ病などの精神疾患は薬によって症状を緩和して、そうしてできた精神的余裕を考え方と環境を変える力として使わないと快方に向かいません。

例えば、この本の前半で泉医師は薬によってできた余裕をさらに仕事に振り向けた結果、悪化しました。逆に後半では薬によってできた余裕を職場環境を変えることに費やし、結果復職に成功しています。

つまり、「働きすぎ」であれば適量の仕事量に減らすこと、更年期障害ならその症状を緩和すること、が治療に必要なのでしょう。

一般に、うつ病に対して「気合が足りない」というのがありますが、うつ病とは気合が入りすぎて体がついてこない状態だったりします。

励まさず、「まず第一に生きていることが重要である」と伝えることが一番です。

本人が一番、働きたいと思っていて、一度働き出すと働きすぎてしまうくらい働くタイプがこういう形式のうつ病にかかるからです。

ですから、うつ病の人に対してはやさしく見守ってあげてください。

ちなみに僕は社会不安障害というのらしいので、うつ病じゃないです。

最悪の時期に病院に行っていればうつ病と診断された可能性は高いけど、僕は「死にたい心は間違った俺で、本能は生きたいだろうしみんなは死なれたら困るだろうから体を生かさなきゃ」とかなんとか思って、今は変な方にぶっとんでしまいました。

ホント、普通の人生を送るためには普通にお医者に行かれることをお薦めします。